兄貴、涅槃で待ってるぜ!『俺は待ってるぜ』

基本情報

俺は待ってるぜ ★★★☆
1957 スタンダードサイズ 91分 @DVD
脚本:石原慎太郎、撮影:高村倉太郎 照明:大西三津男 美術:松山崇 音楽:佐藤勝 監督:蔵原惟繕

感想

■あまりに有名な映画なのでなんとなく観たものと思い込んでいたが、初見でした。全く新鮮な感動を覚えましたよ。石原慎太郎が弟・裕次郎のために書き下ろしたオリジナル脚本ですね。

■かなり上出来な、映像的にも堅牢で、抒情的な名作一歩手前って感じの映画で、名作に届かなかったのは、お話が大きく二部構成になっていて、第一部はフランス映画もかくやというほどの薫香を放つのだが、第二部がかなり通俗な活劇に終始することによる。明らかに第二部がつまらないのだ。

裕次郎の経営するレストランREEFに、身投げ寸前で裕次郎に拾われた北原三枝が身を寄せ、互いの過去を明かしあう前半部分はホントに上出来で、慎太郎の観念的な台詞も裕次郎と三枝が台詞を交わすと妙な説得力があるし、うらぶれた医師を演じる小杉勇がホントにフランス映画のような味のある名演を見せる。なるほど日活ムードアクションはここに端を発したのかと納得する。名手・高村倉太郎のモノクロ撮影も絶品で、陰影というよりも、構図のシャープさで魅せる。なぜか大物・松山崇が担当している美術は完全にフランス映画かハリウッドのノワール映画のタッチで、映画の雰囲気やルックを規定している。

■一方、肝心の北原三枝を放っておいて、ブラジルに渡ったはずの行方不明の兄の行方を追って裕次郎が暗黒街を彷徨うのが後半だが、仇の二谷英明が惚れ惚れする好演なのが見どころだが、お話が変わってしまった感がある。

北原三枝とは肉体関係さえ交わさないままに、いやその前に俺にはやることがあるんだ、これが終わるまで俺には君を抱くことさえできないんだ、と言わんばかりに兄の探索に没頭してゆく。恋愛よりも兄弟愛の方が大事なんだと慎太郎は言いたかったのだろうか。というか、そうとしか見えない映画なのだ。弟よ、命を懸けて生涯俺を愛せよ、と映画を使って裕次郎に呪いをかけたのがこの映画の本質なのかもしれない。だが、現実世界では、先に涅槃に旅立ったのは弟なのだった。

■というわけで、日活ムードアクションとしては後年の『赤いハンカチ』などのほうがメロドラマとしても活劇としても上出来なんだけど、特に前半の過去ある運命のカップルの恋愛劇のスマートさが堪らない魅力の一作ですね。影のある女をクールに、しっとりと演じる北原三枝の女優力にも感心しました。

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