60年安保敗北!戦後日本の敗残者の末路を描く異形のムードアクション『やくざの詩』

基本情報

やくざの詩 ★★★☆
1960 スコープサイズ 88分 @アマプラ
企画:坂上静翁 脚本:山田信夫 撮影:藤岡粂信 照明:藤林甲 美術:佐谷晃能 音楽:中村八大 監督:舛田利雄

感想

■ふらっと流れてきた訳あり風のピアノ弾きは、恋人を殺った仇を追っていた。手がかりは、32口径のゲルニカ拳銃の使い手であること。地元やくざの抗争が始まると、その背後に左利きの男の暗躍が見え隠れする。しかも、その弾丸は32口径だった。。。

■何故か山田信夫がオリジナルで書いたムードアクション活劇。まだ正式にムードアクションが路線として始まってはいないが、骨格も内容も完全にムードアクション。なので、主演が裕次郎でないのが不思議なほど。しかし、後年のムードアクションの「個」に注目した作劇ではなく、敗戦と戦後に関する後ろめたさが重く塗り込められているのが、あまりにも異色で、異形ともいえる陰鬱な映画になっている。特に垂水悟郎が演じる左利きの拳銃魔の人間像に脚本家は大きくテーマを仮託している。あえて、詳しくは書かないけど、その具体的な描写があまりに残酷で凄いので絶句する。誰しもこの左利きの男に感情移入するように書かれている。

■そして左利きの男は神戸へ逃亡するはずが果たせず、波止場でキャバレー歌手の南田洋子に救われる。この波止場の事件も普通の人には到底思いつかない酷い趣向で名シーンなのだが、さらにこんな名シーンが展開される。山田信夫の絶頂期だし、舛田利雄の最盛期でもあるので、次々とさらっとこんな場面が描かれて、ひたすら痺れる。若さの勢いって、ホントに凄いね!

「なぜ俺を連れてきた?え、どうしてだ?」
「わからないわ。たぶん・・・」
「たぶん、なんだ?」
「たぶん、海へ行けば何かあると思ったの」
「何を拾った?」
「あなたを」

■左利きの男とその兄弟も、その犠牲者となる酔いどれ医者も敗戦の影を背負って生きている。というか、いまだに敗戦の痛みと後ろ暗さの中に生きている。本作の「やくざ」とは暴力団のことではなく、敗戦後に生き残り、社会の裏側でしか生きられない敗残者のことを指している。金子信雄演じる酔いどれ医者に至っては、今際の際に731部隊で捕虜に対して細菌実験をおこなったことを唐突に告白するのだ。1960年、安保闘争敗北の年、二度目の敗戦の年。左利きの男の含意は明白だ。

■プロデューサーの坂上静翁は東宝から来た穏健な文芸路線の人という印象だったのだが、この時期立て続けに60年安保(の敗北)を意識した作品を連打しており、よほど腹に据えかねるものがあったらしい。本作の直前が同じく東宝から流れてきた滝沢英輔の露骨に赤い映画『十六歳』だし、翌年が『あいつと私』なので、意図的な番線だったはず。

■そして本作はそんな敗残者=やくざ達の生き死にを「手」をモチーフとして構成したところにユニークさがあり、主人公は元医者でピアノ弾きで拳銃の達人という、手技の万能選手(どんな奴?)であり、敵となるのは左利きの男にして、さらにひねった人物造形となっていて、文字通りの「手」そのものを禍々しく描き出す。(具体的には書けないけど、ホントに凄いので必見。映画史に残る趣向だと思う。)

■とにかく、全盛期の舛田利雄の天性の勘の冴えは物凄くて、名場面がいくつもあるし、カッティングのシャープさは日活沈没以降の作品ではなかなか観られないものだ。そして、舛田利雄が撮った日活のやくざ映画って、東映の時代がかった任侠やくざ映画とは違って、完全に社会派映画として、あるいは観念映画と完成されていて、同時期の東映深作欣二らの社会派やくざ映画と比較しても非常に先鋭的であると同時にスマートに洗練されていると感じる。舛田利雄の再評価が必要だと思う。

参考

こちらも舛田利雄の観念的社会派活劇の傑作。垂水悟郎はここでもおいしい役を好演するぞ。
maricozy.hatenablog.jp
裕次郎のムードアクションシリーズの中でも異色の冥さ。ここにも敗戦の影が。まさに地獄めぐり、の傑作。
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これも忘れられた秀作。基地の街に生きる少女の悲劇『十六歳』
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松竹のヌーベルバーグと呼応しつつも、日活映画はちょっと独自な展開を果たしたし、娯楽映画の枠組みの中で、普遍性の点でまさる秀作を残した。
maricozy.hatenablog.jp
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全く関係ないけど、名曲なので聴いてください。森山良子の『ふたつの手の想い出』、沁みる。
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