チャカはわしの零戦じゃけえ!『仁義なき戦い 広島死闘篇』

基本情報

仁義なき戦い 広島死闘篇 ★★★
1973 スコープサイズ 100分 @DVD
原作:飯干晃一 脚本:笠原和夫 撮影:吉田貞次 照明:中山治雄 美術:吉村晟 音楽:津島利章 監督:深作欣二

感想

■広島やくざ戦争の史実に取材した仁義なき戦いシリーズの第二弾で、番外編的な扱いながら評価が高い一作。他の作品はあまり完結しないので、本作は独立して完結しているから評価しやすい面もある。戦時中、特攻兵になることを夢見て果たせなかったヤクザが戦後、チャカはわしの零戦じゃと言いながら、村岡組に所属して敵対する大友一家を殲滅しようとするが、村岡組長の姪で戦争未亡人である娘と愛し合ったために、村岡組長に罠にはめられることになる。

■千葉ちゃんが大暴れする大友勝利の人間像とか下品な台詞が大受けするのは無理もなくて、深作監督の世代的にも戦後世代に肩入れする立場だし、やりたい放題やらせて、最も目立っているし、確かに痛快。一方、北大路演じる山中はいまひとつピンとこない。単なる殺人狂でもないし、結局は年重の親分にいいようにされて殺す必要のない兄貴分を殺してしまい、四面楚歌で自殺する。そこにはあまり感情移入の余地がない。

■北大路と懇ろになるのが梶芽衣子だけど、特攻隊員の未亡人という設定だけが語られるが、それ以上の表現の工夫がない。本来は組長も含めて被差別部落の出身という設定を笠原和夫は考えていたけど、当時は部落解放同盟などの暴力的糾弾が活発だった時期なので、断念したという。今井正の『橋のない川』第二部に対する解同の上映妨害事件が映画関係者のトラウマになっていた時期で、山本薩夫ですら『戦争と人間 完結編』では映倫に事前にアドバイスされて被差別部落出身の兵士の設定を改変したくらいだから。といいながら、広島の”原爆スラム”でヤクザ同士の下品な大喧嘩をロケ撮影してしまうのだから、さすが東映の闇は深い。

■ひょっとすると、山中も被差別部落の出身なので、姪は部落外の人間にしか遣れないといった村岡組長の屈折した心理が二人を引き裂くような構想だったのだろうか。確かにその方が心理的なテーマは明確になるが、完全にメロドラマだな。個人的には好物だけど、さすがに時期的に困難だろうな。

■基本的に東映は男優中心主義で、配役には一番力を入れており、大物俳優が無駄に揃う。俳優のギャラが決まってから美術予算が決まるという、普通の映画会社とは逆の発想なのだ。本作も小池朝雄なんて、日活の「泥だらけの純情」や「夜霧のブルース」でヤクザものをあれだけ丁寧に演じていたのに、本作の雑な扱いは勿体ないかぎりだ。千葉ちゃんの父親役の加藤嘉なんて、そもそも端役だが、よく出たね。後に加藤嘉篠田三郎に「大日本帝国」みたいな映画には出ちゃいけないよと『ふるさと』で共演した際に諭したのだが、同じ脚本家でも「仁義なき戦い」は良くて「大日本帝国」は駄目という基準はなんだろう?

参考

笠原和夫はもはや映画偉人ですね。

小池朝雄東映時代に片っ端から出まくりましたよね。純粋な端役でも嫌がらずに出た。それ以前の日活時代は小さい役でも丁寧に演じ、大切に撮影された。
maricozy.hatenablog.jp
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加藤嘉といえば、これ『ふるさと』でしょう。
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被差別部落について正面から描くのは、この当時相当な覚悟と政治力が必要だった。うかつに手を出すと行き過ぎた反差別運動(糾弾)の見せしめとなって社会的に抹殺されることも少なくなかった。今井正だからここまでできた。
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山本薩夫はけっこう妥協してしまうのだ。
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篠田三郎の代表作ですね。何度見ても何らかの教訓を得られる傑作です。
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