橋のない川 第一部  ★★★☆

橋のない川 第一部
1969 スコープサイズ 127分
衛星劇場
原作■住井すゑ 脚本■八木保太郎依田義賢
撮影■中尾駿一郎 照明■浅見良二
美術■川島泰造 音楽■間宮芳生
監督■今井正

■明治の末頃、奈良の山間の小森部落のある一家の年代記を描いた大河小説の映画化。部落解放同盟共産党今井正が揉めたことで有名な映画だが、もめたのは本作ではなく、第2部であったらしい。
■第一部である本作は、孝二という少年(小学生)が学校の内外で体験する部落差別をいくつかのエピソードに込めてリアルに描くとともに、明治期の貧しい山村の暮らしを少年の目から牧歌的に描いている点で非常にユニークである。もっと左翼的な、教条的な肩肘張った映画かとおもいきや、昔の日本映画らしい柔らかい叙情や人情味が豊富に盛られて、観客自身が部落の人々に自然に感情移入するように作られている。このあたりは、脚本に依田義賢も参加しているので、そつが無く、非常に上手い。
■一般の映画会社の協力が得られないので、役者は新劇人を中心としており、しかもメンツはかなり地味。北林谷栄長山藍子伊藤雄之助の3人が大物で、あとは今福正雄、石立鉄男小沢昭一、田武謙三といった面々で、特に女優陣の地味さが凄い。リアルという意味では成功しているともいえる。第一部では北林谷栄が非常に念入りな(コテコテの)演技で、ほとんど怪演に近いが、一方の伊藤雄之助も、ただでさえ怪演なのに、特に第二部は汚れメイクを厚くして輪をかけて怪人になっている。しかし、伊藤の演じる永井藤作という役柄は非常に振幅の激しい人間性を演じることになるので、役者にとってはやりがいのある役だろう。本来は辰巳柳太郎のような役者が演じると、もっと素直に自堕落な好人物ぶりが際立つのではないか。
■上述したように、部落の大人たちの生活と心根をリアルに描くのと同時に、少年の成長物語としての側面があり、京都に修学旅行に出かけて、一緒の部屋に寝ようと約束した同級生たちがいつの間にか別の部屋に移って独りぼっちになっているといった差別のエピソードは胸を締め付けるし、好意を抱く少女に手を握られてどぎまぎしていると、後で、部落民は夜になると蛇のように体が冷たくなると聞いた噂の真偽を試してみたのだと明かされる残酷な告白が待っているといった具合に、真綿で首を絞めるような差別のディテールが丹念に描かれ、終盤の放水による提灯落とし競争に心理的に集約される。この見せ場も、在所の人々の部落に対する蔑視が暴力的に顕現したものだが、失火を苦にして自殺した幼い息子の供養を兼ねて大金を寄付して購入したポンプを伊藤雄之助が機転を効かせて操作して競技に勝ってみせるところなど、劇的効果としては満点である。そして、ラストシーンは突如カラーになり、作画合成による真っ赤な落日を背景に水平社の設立が近いことが字幕で示されて終わるのだが、第一部はそれだけで結構完成度が高く、独立した一本の映画としても観られる。
■本作では「エッタ」という賤称が多用されるのだが、第二部では水平社宣言以外ほとんど使用されず、「ブラク」という賤称に置き換わっているのも、解放同盟となんらかの軋轢があったことを伺わせる。