ふるさと
1983 スタンダードサイズ 106分
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原作■平方浩介 脚本■神山征二郎
撮影■南文憲 照明■岡本健一
美術■小川富美夫 音楽■針生正男
監督■神山征二郎
■ダム工事で水中に没することが決まっている小村で、惚けはじめた老人と男子小学生の交流を描く神山征二郎の出世作。確かテレビ放送もされていたはずだが、ちゃんと観たのは初めて。確かに、かなりいい映画である。痴呆症状を示し始めた老人を加藤嘉が演じて、凄い名演を見せる。この映画の成功の過半はこの配役の妙にある。
■呆け始めた老人が、少年と山に入ると頭がはっきりして、昔の記憶や昔身につけた技量を発揮してみせるが、引き離されると、また呆けはじめるというあたりが非常によくできた作劇で、非常にシンプルな物語の中に、重層的な死生観を滲ませる。神山征二郎の地味ながら着実な演出と、丁寧なロケ撮影、ロケセットのリアリティによって、ドキュメンタリーのような肌合いを生み出して、老人の死とふるさとの喪失を重ね合わせて静かな感動を生む。
■ロケの際には、加藤嘉が、回想シーンで自分の若い頃を演じる篠田三郎に、「大日本帝国」のような映画には出てはいけないよと諭したという良いエピソードが残されている。