『生まれたら戦争だった 映画監督神山征二郎・自伝』

■実は「ハチ公物語」すらまともに観ていないし、代表作「ふるさと」も確か観ていないはずの、神山征二郎だが、自伝として、ほぼ全監督作品について振り返っている本書は資料的価値もあり、それぞれの作品の成り立ちに関する興味も深く、読みごたえもある、なかなかの良書。そういえば「ひめゆりの塔」はちゃんと映画館で観ているなあ。笠原和夫真珠湾映画が頓挫して、もう少しソフトなものをという方針転換で、東宝テレビ部から出された企画に、今井正のリメイク版「ひめゆりの塔」で協力監督を務めていた神山征二郎にお鉢が回ったという顛末らしい。まあ、監督・澤井信一郎、脚本・笠原和夫特技監督中野昭慶、主演・高倉健という大作映画「真珠湾」が実現していれば、という気は、猛烈にするわけだが。

■日大映画学部を結核で中退し、「映画芸術」でバイトしていて新藤兼人に助監督として拾われるが、助監督としてはパッとせず、初めて書いた脚本が評価されて親子映画で監督昇進につながるが、その後も近代映画協会、こぶしプロ、神山プロと独立系で低予算映画を撮り続け、それでも松竹や東宝で大作を任されるようになるという地道な監督人生が微妙な共感を呼ぶ。老舗独立プロの歴史とか一時期よく製作されていた”親子映画”の歴史の資料としても興味深い。

■松竹映画では必ず新藤兼人と組んでいるのだが、本書では新藤兼人を特に尊敬しているといった風情ではなく、計算ずくで互いに協力しているといった印象だ。しかし、「ハチ公物語」とか「遠き落日」などの大娯楽映画を新藤兼人がどう書いているか、再確認してみたくなった。特に「遠き落日」など、新藤兼人野口英世の母親をどう描いているか、それは松竹の正統木下恵介などの視点と比べてどう違うのか、といった点が気になる。

■「月光の夏」とか「白い手」などは公開当時から評判が良かった作品なので、この際観ておきたいな。

© 1998-2024 まり☆こうじ