ママは真美の敵よ!今日も小百合がブチ切れる『泥だらけの純情』

泥だらけの純情 [DVD]

泥だらけの純情 [DVD]

  • 発売日: 2008/02/09
  • メディア: DVD

基本情報

泥だらけの純情 ★★★
1963 スコープサイズ 91分 @DVD
原作:藤原審爾 脚本:馬場当 撮影:山崎善弘 照明:高島正博 美術:大鶴泰弘 音楽:黛敏郎 特殊技術:金田啓治 監督:中平康

感想

■たまたま外交官令嬢の危機を救ったチンピラは令嬢と身分違いの恋に身を委ねるが、おかげで組での評判を落とし、兄貴分に諭されて麻薬取引に対する警察の捜査の手を緩めるため自首することを納得するが、、、
■日活純愛映画+ヤクザ映画という、企画意図は十分に斬新だろう。ちょうどいい原作小説がおあつらえ向きに存在したのも良かった。映画としては上出来の部類で、リマスターも綺麗で見応えがある。ただ、終幕の心中の顛末に説得力がなく、せっかくそれまでいい感じだったのに、かなり惜しい。
滝沢修がヤクザの親分の役で1シーンだけ登場するのも驚いたな。ホントにありきあたりの脇役なので。一方、塚田組の親分は平田未喜三という人が演じて、不気味な存在感があるのだが、当時千葉県のほうで町長をやってた人らしい。当時の民芸の若手俳優だった平田大三郎の父らしいが、素人とは思えない貫禄です。
■その組の幹部が小池朝雄で、この映画での一番の設け役。浜田光夫のチンピラを弟分として可愛がりながらも、組のしつけは厳しく教え込む、懐の深い幹部。なにしろ『夜霧のブルース』でも同じような役柄をやっているから、いつ陰険に豹変するかと安心して観ていられないのだが、本作ではヤクザ組織の掟をシニカルに見ることのできる醒めた目を持つ男である。身分違いの恋のドラマを地に足のついたものにしているのは、この分別盛りの兄貴分の人間味だ。
浜田光夫のチンピラぶりは実に可愛いのだが、ちゃんと情婦がいて、この女が脇毛抜いてちょうだいって言いながら脇毛がドアップになるという凄いシーンがある。星ナオミという、当時の日活映画ではお色気担当の脇役だった女優が演じているが、結構大きな役なので本来ならもう少し格上の女優が演じるところだが、さすがに脇毛アップは嫌がったのだろう。
■お嬢さんと別れて、警察に自首してヤクザとして出直す決心をしたのに小百合がねぐらに訪ねてくると二人で逃避行してしまうまでは上出来なんだけど、その後追い詰められて自殺に至るあたりにの心理描写に工夫が足りないし、そもそも尺が足りない。おまけに、心中後の描写も葬列の対比だけでは、テーマが浮かび上がらない。せっかくの兄貴分の小池朝雄をもっ活用すべきだが、泣かせるだけでは足りない。
■本作の小百合はちょっとステレオタイプな役柄で、あまり旨味がないのだが、せっかく連れてきた光夫を、あんな人の来るところじゃありません、帰ってもらいなさいと細川ちか子(!)演じる母親に言われると、

「ママ!ママは、真美の敵よ!」
(※映画本編より再録)

といってブチ切れるのが本作のクライマックスで、いつもの小百合テイストで見せ場。結構、この時期の小百合は心理的な沸点が低くて、不合理や理不尽に対してよくブチ切れますからね。吉永小百合って、意外にもそういう直情型のキャラクターとして人気があったんですね。
■というわけで、非常によくできた娯楽映画ですが、ラストのあたりの身分の差に対するツッコミが不足で、少々残念な映画でした。ひょっとすると元々の脚本ではそのあたりが書き込まれていたのではと思わないでもない。外交官家庭の裕福ぶりもあまりリアルではないし、チンピラの実家のリアルな貧しさも描かれない。まあ、そこは日活リアル路線に任せるのが賢明という判断だろうか。
■さて、本作の白眉は、小池朝雄が光夫がブタ箱に入っている間に小百合からアパートに届いていた手紙を敢えて読ませずに燃やしながら、身分違いの恋を思い切らせようと光夫のことを思いやって諌める台詞だろう。

アメリカの白の女はニグロとは間違っても寝ねえって話、知ってるか?何よりも体臭が違うからだ。タクアン生っかじりにしてる奴とセロリに塩ふって喰ってる奴とは、体の臭いもハッキリ違うだろうによ…」
(※映画本編より再録)

大人である小池朝雄(多分インテリヤクザ)はこの現実を、頭では善かれとは思っていないけど、そのまま受け入れる。若い光夫と小百合はその理不尽が許せず、あるいは理不尽を糺すすべを知らないから、怒りを外に向けるのではなく、怒りを滅するために自らを滅ぼしてしまう。そのあたりの若さの限界と悲劇の構図をもっと切実に示せないと傑作に届かないわな。同じ日活の純愛映画でも例えば『愛と死の記録』ではそのあたりが成功していたからね。

参考

こちらも小池朝雄の傑作。この頃は、まだ端正な”人でなし”だった。こののち、東映(京都)に出始めるとすっかり”変態”になってしまう。
maricozy.hatenablog.jp
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