ヴェロニカ・ゲリン

基本情報

ヴェロニカ・ゲリン
(VERINICA GUERIN)
2004/CS
(2004/6/25 MOVIX京都/SC6)

感想(旧HPより転載)

 1990年代のアイルランド、子供たちにまで蔓延した麻薬の害毒に心を痛めた子持ちの女性記者は暗黒社会に巣食う麻薬王を突き止めるべく、取材で知合った裏社会とのつながりを持つ社長(シアラン・ハインズ)たちの情報をもとに取材を進める。だが、首謀者と思われた人物は暗殺され、暗黒社会の勢力争いの様相を呈してくる。社長の忠告も無視して麻薬王に迫る彼女の家に銃弾が打ち込まれ、ついに彼女自身も襲撃を受けることに・・

 アイルランドに実在した凶弾に倒れた女性記者の実話をもとにした、爆破魔ジェリー・ブラッカイマー製作、ジョエル・シュマッカー監督による誠実な劇映画化。ラストの10分の描写が、さあ泣いてくださいという、映画的空白になってしまったのが唯一の欠点だが、そこに至るまでの映画的完成度はかなり高い。

 なんといっても、この映画の充実感を担っているのは、タイトル・ロールを演じたケイト・ブランシェットの演技である。成り上がりの若手女優などが演じれば格好付けに終始してしまいかねないハンサムな働く女性を、等身大のリアルさで、しかも繊細な表情としぐさで演じきったその演技の質の高さに映画全体が緊迫感で震えている。度重なるギャングからの脅迫や暴力にも屈せず、食い下がり続けるタフな生きかた、母でありながらも過度に情に流されず、ハードボイルドに生き続ける彼女の人生の実感をたった90分そこそこの映画のなかに過不足無く詰め込んだ充実の演技はそれだけで感動的である。

 特にシアラン・ハインズ演じる裏社会とのつながりから彼女に協力する怪しい社長との恋愛がらみの感情を匂わせながらつかず離れずの微妙な人間関係を中心に置いた脚本構成が秀逸。崩れた男の色気を発散するシアラン・ハインズとケイト・ブランシェットの2ショットは、その演技合戦だけでサスペンスが保証されている。

 撮影監督のブレンダン・ガルビンはあのアクション映画の快作「エネミー・ライン」で硬派なキャメラワーク、画調を見せた男で、今回はダブリンロケを生かした実に繊細な照明設計を見せている。シネマスコープサイズの余白の中にアイルランドの空気と湿度がたっぷりと詰った良い仕事ぶりである。次回作が「サンダーバード」というのがトホホだが。

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