『ダークネス』

基本情報

ダークネス
(DARKNESS)
2002/CS
(2003/3/1 MOVIX京都/SC5)

感想(旧HPより転載)

 ある家族がアメリカからスペインの郊外の家に引っ越してくるが、原因不明の停電が発生し、弟は闇の気配に怯え、ソファの下の暗がりが色鉛筆を食べると口にする始末。父親(イアン・グレン)は謎のフラッシュバックに怯え、昔患った精神障害が悪化して粗暴な振る舞いが目に付くようになる。そんな異変にいち早く気付いた姉(アンナ・パキン)は恋人と共にその家の秘密を探るうち、家の設計者を突き止めるが、40年前の皆既日食の日、その家では7人の子供が行方不明になり、1人だけが奇跡的に発見される事件があったことを知る。そして、その家は何者かの指示により邪悪な意図を持って設計されたことも。40年前に何が行われ、間近に迫る皆既日食の日に何が起きようとしているのか?

 「ネイムレス 無名恐怖」という作品で注目されたスペインの若手監督ジャウマ・バラゲロの新作だが、「悪魔の棲む家」や「シャイニング」といった幽霊屋敷モノの古典を忠実に踏襲した怪奇映画の良作。ただし、鶴田法男の「霊のうごめく家」は観ていないことが察せられる不徹底さも併せ持っており、準傑作に止まってしまったことが惜しまれる。

 前半の物語展開は綺麗に定石通りのもので、主人公が家の異常に気付くのが若干早すぎるきらいがないでもないのだが、「ピアノ・レッスン」の頃が懐かしく想い出されるアンナ・パキンがピチピチというよりムクムクの肉感的な少女に成長して単純に観客の目を愉しませるというのも結構な趣向だし、「シャイニング」のジャック・ニコルソンでは最初から狂っているようにしか見えないがイアン・グレンの変貌ぶりは説得力があるといった着実な演出的な戦略が積み重なって、サスペンスを増幅させてゆくのだが、さすがにそれだけでは二番煎じにしかならないので、後半部分はミスディレクションも駆使してかなりの捻り技を見せる。

 このあたりはアメナーバルの「アザーズ」に対する対抗意識によるものかもしれないが、あまり捻りすぎるとサスペンスではなく、ショッカーに近づいてしまって、映画としての品格を落とすことになるので注意が必要だろう。

 家の闇の中を徘徊する小さい影たちの表現はその都度大袈裟な効果音を入れて効果を減退させており、「シックス・センス」や「サイン」でもシャマランが援用した鶴田法男の演出に接していないことは明らかだろう。近年流行りの短いカットをフラッシュさせる編集やパニックになると画面が小刻みに揺れる効果なども小賢しいだけで、これだけの演出力があるのだから、あくまでも正攻法で自信を持って描ききればいいのだ。

 真犯人の背後に忌まわしい家を設計させたと思しい邪悪な存在を点描しながら、曖昧模糊とした結末のまま突き放すような終わり方も見事で、おそらくホラー映画では今年のナンバー1は間違いないだろう。ホラー映画ファンは必見と断言しておこう。

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