「叫」を撮り終え、「LOFT」の公開を控える黒沢清が自身の半生と全作について語り降ろす興味津々の話題作。映画だけに止まらず、ひとりの映画監督の赤裸々な(それほどドラマチックではないが)生活と人となりがよく表現されており、実に微笑ましく、魅力的な人物像が素直に伝わってくる。
自分自身では常に製作側の希望を入れて誠実に職人的に責任を果たしているつもりなのに、「やりたい放題ですね」と謂われると困惑すると告白しているあたりが可笑しい。
伊丹十三との長期にわたる法廷闘争についてはあっさりとしか触れられていないので、その筋の(?)ファンには物足りないかもしれないが、不遇期に宝塚映像で関西テレビの子供向け30分番組を撮っていた頃のエピソードが感動的。宝塚映像のスタッフに信頼され、「ワタナベ」なんて企画から参加していたらしい。正直、黒沢清がもっとも真っ当な職人芸を発揮していた時期なのだ。当時、黒沢清が坂田利夫を演出するというあまりの違和感に見ていて”なぜの嵐”状態に陥ったものだが、その後の宝塚映像の最後のシリーズ「学校の怪談」では鶴田&小中理論を果敢に実践して秀作を残し、現在のJホラーの先駆けを果たしていたのだ。
青山真治や篠田誠の映画祭での評価、塩田明彦の大ヒットなどに、ナイーブに落込む黒沢清というのはいったいどういうことなのだろう。少なくとも「黄泉がえり」に嫉妬する必要は全く感じられないのだが。