『大殺陣』

基本情報

大殺陣
1964/CS
(2003/3/6 レンタルV)
脚本/池上金男
撮影/古谷 伸 照明/安田与一
美術/富田治郎 音楽/鈴木静一
監督/工藤栄一

感想(旧HPより転載)

 徳川家四代将軍の時代、権勢を恣にする大老酒井(大友柳太朗)は甲府宰相を次期将軍に据えて政治的実権を掌握しようと図るが、その計略を阻止しようと暗躍する一団があった。大目付大木実)の探索により、その首隗が軍学者山鹿素行(安部徹)であることが知れるが、彼の組織した暗殺部隊は大老酒井の頼みの綱甲府宰相の行列を吉原の日本堤に誘い込んで撃滅せんとしていたのだ。

 正直言って「十三人の刺客」は世評ほどの傑作とは思わなかったのだが、次作に当たるこちらは間違いなく時代劇の傑作である。多分に図式劇の誹りを免れない欠点はあるものの、組織化された反権力闘争の内実をどす黒くえぐりだした手応えは抜群のものがある。

 ことに山鹿素行のテロ組織に参画する面々のそれぞれの無念の死に様を描くエピソードの秀逸さは特筆に値するだろう。濡れ衣を着せられて新妻を惨殺された復讐のために組織に加わり、次第に暗殺計画に意義を見出してゆく里見浩太郎と典型的なノンポリの立場で登場する平幹二郎の生き方の対比がラストに鮮やかに結実しているし、構成員達を引き留めるために自らの身体まで利用する宗方奈美が計画決行の直前にメンバーである山本麟一の性欲の犠牲として絞殺されてしまうエピソードのリアルな残酷さなど圧巻といえよう。

 さらに見るからに温厚そうな貧乏侍(大坂志郎)が計画実行の日に愛する妻子の命を自らの手で奪う場面など、極端なほどの省略の技法が奏功した見事な演出で計画自体に必然的に内在する狂気を深く洞察してみせる。

 そして、吉原周辺のどぶや用水、田圃を舞台としたラストの文字通りの大殺陣を捉えた激動のキャメラワークはそうした人間たちの運命の非情さを嘲笑うかのように躍動的で凄惨と呼ぶよりも、むしろ祝祭的な空間を現出させているところにこの映画の更なる非凡さが現れている。

 集団抗争時代劇であり、残酷時代劇であり、暗黒時代劇でもある、この優れて硬質の脚本が命をやり取りを言祝ぐかのような祭りの風景に帰着する様は荒唐無稽なようでいて、実に暗示的である。

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