混ぜるな危険!「火まつり」+青春映画の化学反応が大失敗した『溺れるナイフ』

基本情報

溺れるナイフ ★★
2016 ヴィスタサイズ 111分 @アマプラ
原作:ジョージ朝倉 脚本:井土紀州、山戸結希 撮影:柴主高秀 照明:宮西孝明 美術:三ツ松けいこ 音楽:坂本秀一 監督:山戸結希

感想

■少女漫画の映画化だけど、なぜか中上健次のエッセンスが混入し、最終的に事故に至った残念映画。最終幕まではかなりいい出来なので、これは傑作かと思われたが、最後の20分くらいでぶち壊し。でもそれらの謎要素は原作漫画由来らしく、決して映画が変な事を考えたわけではないようだ。中上健次の「火まつり」が下敷きになる(なぜ?)のも原作からのものだ。

■お話の着想や展開だけみると明らかにロマンポルノでもあり、似たような構成の映画があったはずだ。元少女タレント(小松菜奈)が火まつりの夜に暴行未遂事件に遭遇し、それを救えなかった恋人(菅田将暉)と間に大きなシコリが残る。それがどう解消されるのか?というドラマになるけど、演出は明らかに相米慎二を意識しているし、主演の二人も好演するので、上出来なシーンがいくつもある。

■一番問題なのはラストの火まつりを繰り返す趣向で、これは原作を離れてオリジナルな展開を用意すべきだった。実際、こういう展開はロマンポルノではいくつかあったと思うが、さすがに苦しい。同じ変質者が火まつりの夜に再び?この変質者がそれなりに描かれるならそれもありだろうが、完全にご都合主義の描き方では、ドラマにならない。同じ村に住む因縁のある男とかであれば、まだ収まりがつくけど。

■しかもそれを小松菜奈の夢かと思わせる混乱した編集も単純に不細工。序盤から編集はかなり独特で、普通のつなぎ方をしていないのだけど、これは明確な失敗。しかも、その後小松菜奈が女優として大成功して。。。みたいな展開は完全に噴飯もの。脚本開発時点できっとなにかあったに違いないと思う。井土紀州が最初からこんなくだりを書くとは思えないし、スタッフやキャストからこれどうなってるの?と突っ込まれるはず。

■熊野の土俗と精神世界を絡めた趣向は悪くないけど、最後の菅田将暉火まつりの舞いなども、撮影、編集ともに浅薄すぎて涙が出る。小松菜奈菅田将暉も非常に良かっただけに、ほんとに勿体ない。技術スタッフは柴主&宮西のベテランコンビなんだけど、監督の狙いと必ずしも合っていない気はする。もっと若手で良かったのでは?

■制服の小松菜奈が走るだけで映画になってしまうのは、本人の演技云々を超えて天賦の才だし、金髪でガリガリ菅田将暉は素晴らしい。半分は現世、半分は神の世界に属する神と人間の間の子として描かれるけど、菅田将暉の演技と体躯でそれをちゃんと感じさせる。あとは監督の理解が追いついていないのだ。青春映画としてのニュアンス表現は非常にうまいのに、肝心の土着の精神性とドラマ構築が理解できていない。それは素人が観ても、そう感じる。いっそのこと、田舎怖いの土俗ホラーに換骨奪胎すれば良かったのだ。その方がずっとスッキリすると思う。


参考

小松菜奈は、なかなかの逸材だと思う。『恋は雨上がりのように』はホントに良かったぞ。
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
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菅田将暉はもちろん逸材だし、いい映画に出てる。『アルキメデスの大戦』はやめとけばよかったのに。(映画は良かったけど)
maricozy.hatenablog.jp
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