共喰い ★★★☆

共喰い
2013 スコープサイズ 102分
DVD
原作■田中慎弥 脚本■荒井晴彦
撮影■今井孝博 照明■松本憲
美術■清水剛 音楽■山田勲生、青山真治
監督■青山真治

■セックス映画まつり第3弾。昭和63年の夏休み、北九州の港町で血走った眼をもつ少年は、性的にどうしようもない父親との血のつながりを意識するなかで、惨劇を目撃する・・・

■最初から最後までセックスの話題しか出ない正真正銘のロマンポルノ。小さな港町の閉塞感と昭和の終わりの終焉感が性欲昂進する真夏を背景にどす黒く醗酵してゆく。そして、逮捕された田中裕子は唐突に”あの人”のことを語り始める。悶々とする日々に浴場で射精された精液はそのまま汚れた運河に流れ込み、そこで生まれた鰻に因業な父親がむしゃぶりつく。小さく閉じて頽廃してゆく閉鎖的な地方町でじりじりと炙られてゆく少年。しかも、その土地柄は終戦後のどさくさで流れてきた者たちが住み着いた町で、被差別の民あるいはマージナルな人々であることを冒頭のナレーションで明示する。ただ、演出的にはロケも含めてあまりそこは強調しない。

■正直、地方都市の人間関係が全く捨象されていて、家族関係しか描かれないのでいまいちリアリティが無いのが青山真治ということか。田中裕子の魚屋も客が見えず、生活実感が描かれない。いや、このあたりは荒井晴彦のタッチなのかもしれない。父親を演じる光石研は頑張っているが、ここは昔の三國連太郎くらいのどす黒さがないと締まらない。

■昭和63年の河口の運河は昭和40年代のヘドロだらけの物凄い有様に比べればすでに大分改善されていて、何しろ戦争の記憶が絡む話だけに時代設定をもっと遡ればいいのにとも感じた。そうすれば、運河の腐ったような物凄い有様や、鰻どころか奇形魚を描くことも出来で、ますます地獄じみてくるはずだ。

■唐突に登場する”あの人”の話とか、終幕の回収とか、かなり図式的に作った印象があるが、いろんな要素を強引にぶち込んで、いろんな意味で見応えがあるし、興味深いという一作。

■制作はスタイルジャム、製作はスタイルジャム、ミッドシップギークピクチュアズほか。

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