戦艦大和の建造予算の偽装を暴け!でも次の会議は2週間後なのでよろしく!『アルキメデスの大戦』

出典:https://eiga.com/movie/89507/gallery/3/

基本情報

アルキメデスの大戦 ★★★☆
2019 スコープサイズ 130分 @Tジョイ京都
原作:三田紀房 脚本:山崎貴 撮影:柴崎幸三 照明:上田なりゆき 美術:上條安里 音楽:佐藤直紀 VFXディレクター:渋谷紀世子 VFX&監督:山崎貴

感想

昭和8年、次期海軍予算獲得の目玉、新造艦船の建造は、大型航空母艦か、巨大戦艦か。航空母艦が欲しい山本五十六は、巨大戦艦の積算金額に疑念を抱き、次の決定会議までに巨大戦艦の積算の偽装を突くために”数学の天才”をスカウトして少佐に据えるが、軍機の壁はあつく、積算作業は遅々として進まない。タイムリミットは刻々と迫るが…

■という漫画原作の映画化で、誰も予想しなかった、意外な力作にして秀作。戦艦大和の沈没シーンは冒頭で描かれ、白組の少数精鋭スタッフが最新技術で堂々たる巨大戦艦をリアルに描く。それだけでも結構おなか一杯ですが、映画じたいは最初の会議と終盤の会議の「二つの会議」が中心として描かれる。何の資料もないまま、いかにして巨大戦艦の予算積算の誤りを告発するかという作戦とサスペンスが描かれる。もちろん、漫画原作なので天才の頭脳によって、ある意味都合よく展開してゆくわけ。

■二つの会議では「航空艦隊主義」の永田、山本一派と「大鑑巨砲主義」の嶋田、平山一派の主導権争いが描かれ、これがかなりコミカルに描かれる。東宝戦記映画のファンとしてはもっと硬派な演出が望ましいところだし、正直なところ実力派俳優の地力を十分に生かしているとは思えない。お馴染みの橋爪功が底の浅い単純な悪役で、かなりオーバーアクト気味なので、下手な役者に見えてしまう危惧があるのは残念なことだ。ほんとは腹芸を演じられる人だからね。山本五十六までかなり軽妙に描かれていて、下手すると三谷幸喜の喜劇のようだ。でも舘ひろしは意外と悪くなくて、演技の軽みが嫌味なくいかされている。

■主演の菅田将暉もかなり漫画的な役作りで、当方は『そこのみにて光り輝く』とか『共喰い』とかの演技を知っているからいいけど、年長の一般観客には少々漫画感が強すぎるだろう。ヒロイン役の浜辺美波も特段の精彩はなく、『大奥 最終章』のほうがよほど印象が強い。
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■本作はこれまでの戦記映画のように戦闘シーンをクライマックスに据えたスペクタクルではない。前線と本土を対比させたメロドラマでもない。基本的にスペクタクルもメロドラマも無い、ひたすら理詰めの物語が展開する。目的は、日本人を過信させ、日本を戦争に導く道具になってしまいかねない危うい巨大戦艦大和の建造を阻止すること。そして戦争を回避すること。最後の会議でその目的は成就するのか、大艦巨砲主義一派の策略が功を奏するのか。そのサスペンスがちゃんと機能しているうえに、物語はその後さらに幾重にもひねりが加わり、最後には思いもよらなかった場所まで観客を誘導することになる。そこは、「理詰めの真理」を超えた、数学では太刀打ちできない「心の真理」とでもいうべき境地なのだ。田中泯が恐るべき真意を語り始める。この映画を見に来た観客なら、誰もあらがうことのできるはずがない悪魔のささやきを。悪魔のように美しい戦艦大和の偉容。そして、まさにその心理が日本を戦争に導いていたことに気づき、ゾッとするのだ。

佐藤直紀の音楽が大仰なうえになぜか浮いているので、実にもったいないのだが、それでも様々な演出的な違和感を超えて、恐るべき企みに満ちた脚本を書いた山崎貴は、さすがに成熟したと感じる。東宝配給の戦記映画においてここまで突き詰めた作劇が可能とは。もはや橋本忍笠原和夫レベルの仕事である(ちょっとほめ過ぎ)。でも、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』はこの映画のためにあったのだ!
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参考

この映画のVFX制作の舞台裏が掲載されてます。派手なVFXシーンは意外と少なくて、製作費はわりとタイトだった模様。たぶん内容が内容なので、製作陣もちょっとアクセルを調整したのでしょう。

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