ついに観た!姫が恋しい親鸞の青春悶々物語『親鸞』

基本情報

親鸞 ★★★
1960 スコープサイズ 147分 @東映時代劇youtube
企画:坪井与、辻野公晴、小川貴也 原作:吉川英治 脚本:成沢昌茂 撮影:坪井誠 照明:和多田弘 美術:桂長四郎 音楽:伊福部昭 監督:田坂具隆

感想

■以前から是非見たいと思っていたのだが、DVDは出ていないし、京都の映画館ではかからないし、どうしたものかと思っていたら、youtube東映時代劇チャンネルでさらっと配信されているので、びっくりして早速観ましたよ。画質も期待していなかったのですが、実にきれいなリマスターで、なんでDVDとか出さないのか不思議なことだ。きっと親鸞の描き方について仏教界となんらかの齟齬があり、事実上の封印映画になっているのかと勘ぐっていたのだが、別にそうでもなかったようだ。そもそも映画のクレジットに仏教団体の名はなく、後年のように仏教界が製作費を出したわけでもなさそうだ。

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■基本的に親鸞の生涯は不明な部分が多くて、そもそも実在したのかも疑われたくらいなので、吉川英治の小説もほとんどは小説家の創作によるけど、映画版はそれをさらに大幅に改変しているようだ。しかも、二部作の続編で完結する構成で、本作ではまだ親鸞は凡夫として無明の闇の中にあるし、法然すらまだ出てこない!

親鸞中村錦之助)は比叡山の修行を終えて京の都に戻ってきてもまだ悟りの境地にはなく、法隆寺に再修行に出かける。京の都に戻って師の慈円大河内傳次郎)が詠んだ恋歌に関する女犯の批判に見事に反駁して門跡に補せられるが、関白(千田是也)の娘(吉川博子)への思慕を断ち切れず、無明の闇を彷徨う。。。

■というお話で、冒頭の遊女に絡まれる場面で、比叡山の僧侶の堕落ぶりと、女犯(にょぼん)の罪が本作のテーマであることを明確に示す。青年親鸞の懊悩を誠実に追うことが映画の眼目であり、日活から東映に移籍して第一作の本作は、たしかに力が入っているのはわかる。助監督のサードかフォースあたりに中島貞夫がついていて、映画づくりの醍醐味を田坂組で教わったと述べているから、時間と金をかけて取り組んだ大作である。東映時代劇の全盛期なので、ステージセットが広大で、そこは大映時代劇を上回る。ただ、キャメラが寄ると、美術装置の質感の低さが露呈するのは東映の限界。でも、リマスターで観ると、ホントに眼福なので、それだけで満足する。

中村錦之助の演技も、本当に全盛期の一番いい頃で、青年らしいナイーブさが残っていて、実に誠実な演技で見応えがある。田坂監督も気力十分なので、比叡山での錦之助の大演説の場面も、巨大なセットでクレーンで堂々とキャメラを引きながら、同時録音で見せる。撮影ステージの機材のギシギシいう物音(多分クレーンの車輪がステージの床を踏む音)まで綺麗に拾っているので臨場感と緊張感が凄い。

■ただ、一番気になるのは、浄土系仏教の教義がほとんど描かれないことで、そこは法然と出会うはずの続編で集中的に描く予定なのかもしれないが、それでもあまりに希薄なのが気になる。僧侶が女性を愛することが認められるのか、そこだけにテーマを絞ってしまったので、そもそも、鎌倉期の民衆の苦しみとか救いを求める心情がほとんど描かれない。浪花千栄子の老婆のシーンくらいのもので、演技も演出も秀逸だけど、不十分だ。そのあたりは後年のアニメ『手塚治虫ブッダ』のほうが的確に点描する。

■この時期の宗教映画はなぜか肝心の教義を描くことを避ける傾向があり、『日蓮と蒙古大襲来』だって『釈迦』だって、物理的なスペクタクルを描くことに頼って、宗教者としての肝心の部分を描こうとしない。そこについて革新を行ったのは後年の『人間革命』『続・人間革命』で、橋本忍は大真面目なので、時間をかけて真剣に教義を研究したうえで、通俗的に受ける劇的要素を決め込んで作劇して、実際、異様な成功を収めた。その多くは丹波哲郎とのコラボによる突然変異だけど、他の宗教と異なる独自の宗教教義を真正面から絵解きするという、ありそうでなかった見世物を成立させたのだ。

■が、本作では浄土系宗教の教義ではなく、宗教者親鸞の青春の懊悩にテーマを見出すのだ。それは、親鸞がまだ教義を見出していないからなのかもしれないが、であれば続編でしっかりと描かれるのだろうか。続編もぜひyoutubeで見せてほしいものだが。じゃないとお話が完結しないよ。東映さん、頼んだよ!


参考

maricozy.hatenablog.jp
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これは画期的な宗教映画だったと思います。なかなか真似できない芸当。
maricozy.hatenablog.jp
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浄土系仏教の教義はこの映画をみると腑に落ちますよ。SFだけど。
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でも宗教映画の最高峰はコレ!最高だと思います。南無阿弥陀仏
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