時代劇版「怪獣総進撃」だよ!『かくて神風は吹く』

基本情報

かくて神風は吹く ★★☆
1944 スタンダード 94分 
原作:菊池寛 脚本:松田伊之助、館岡謙之助 音楽:宮原禎次、深井史郎 撮影:宮川一夫、松井鴻 美術:高橋康一、川村鬼世志 特殊効果:東宝株式会社 監督:丸根賛太郎

感想

文永の役の後、元の使節を惨殺した北条時宗片岡千恵蔵)は次なる元の襲来に備えて大号令をかける。一方、伊予国では河野家と忽那家が対立していたが、河野家は一番乗りを目指して早々と博多に手勢を送り込む。河野との友好に難色を示す海賊気質で戦闘上手の惣那重義(嵐寛寿郎)も、ついに持ち船を博多に派遣することを命じる。やがて対馬壱岐に上陸した元軍は大殺戮を開始する…
陸軍省海軍省の協賛で情報局が企画した戦意発揚映画で、戦時体制にて映画製作会社の統合が進み、東宝が特撮シーンの制作を請け負い、円谷英二が担当したことで有名な作品だが、初めて観た。当時の時代劇オールスターキャストだが、実質の主役は阪東妻三郎で、おなじみの独特の節回しの台詞と豪快なキャラクターで魅せる。敵対するのが半分海賊気質が残る武士の嵐寛寿郎で、おもしろいのが、他の大物俳優がみんないかにも時代劇風の大仰な台詞回しなのに、アラカンだけ妙にフラットな現代劇風の台詞回しなんだね。特に片岡千恵蔵なんて戦後ではなかなか見せないほどの大熱演で、悪く言えば非常に臭い芝居だけど、アラカンのこのナチュラル演技には驚いた。とはいえ、顔自体が濃いので、アップになるとそれだけで十分クドいんだけど。
市川右太衛門がどこに出てるのかと思いきや、日蓮上人じゃないですか。『日蓮と蒙古大襲来』の長谷川一夫ほど出番は多くないけど、大変な貫禄です。
■ドラマのクライマックスは、船があれば元軍に夜襲をかけられるのにと切歯扼腕しているバンツマのもとに、アラカンが持ち船を連ねて駆けつける場面で、二人が握手するところ。ゴジラガメラみたいな夢の共演でしょう。元軍は、やっぱりキングギドラでしょうね。
■一方、元軍の軍船のミニチュアワークはさすがに見応えがある。とはいうもの、クライマックスの神風の場面は同じようなカットの繰り返しで、実際のところ冗長。昔の日本映画の大作ではありがちな状態だけど、ドラマ的なサスペンスを仕掛けていないので、単に派手なスペクタクルを見せておけば退屈しないだろうという、間違った信念による編集が行われている。

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