教義を描かない宗教映画なんて、クリープを入れないコーヒーみたいだね?『日蓮と蒙古大襲来』

基本情報

日蓮と蒙古大襲来 ★★
1958 スコープサイズ 138分 @アマプラ
企画:辻久一、税田武生 脚本:渡辺邦男、八尋不二 撮影:渡辺孝 照明:伊藤貞一 美術:上里義三 音楽:山田栄一 特殊撮影:今井ひろし、築地米三郎、本間成幹 照明:中岡源権 監督:渡辺邦男

あらすじ

日蓮が散々予言して鎌倉幕府に注進したのに無視するから、ほれみろ、蒙古が攻めてきて壱岐対馬で大虐殺が。やっと目が覚めた鎌倉幕府では時宗が兵を博多に送るが、時すでに遅く。。。

感想

■何十年前かに、オールナイトでボロボロの褪色したプリントで観て以来、かなり綺麗なリマスターで鑑賞できました。感慨深いですね。でも映画はあまりおもしろくありません。最後の特撮場面も、個々のミニチュアカットは非常によく撮れているのに、編集にドラマ性がないので、同じようなアクションの繰り返しで、かなり冗長な繋ぎになっている。円谷英二なら、ここはちゃんと演出の効いた編集になるところだ。

■一番残念なのは日蓮の宗教教義を描かないことで、基本的に信者が観に来てありがたがればいいという作風。せっかく日蓮を描くのに、なんでその興味深い教義を描かないのか不思議。教義で説得して観客を信者にしようとすればいいのにと思う。これに比べると『人間革命』『続・人間革命』が画期的なのは、堂々と真正面から教義を描いてしまうところ。当時のハリウッド制キリスト教映画でも、最低限の教義は描かれていたのだから。

■同じことは後の超大作『釈迦』でも起こっていて、仏教エピソードの羅列で終始してしまう。八尋不二が脚本を書くとどうもドラマの構築が緩くなる傾向があると思うなあ。というか、確実にそうだよね。東映なら、もっと脇役が濃密に絡み合う複雑な、でも観ているとするする腑に落ちる脚本になるところだ。脚本は依田義賢あたりに書いてほしかったなあ。まあ、嫌がったんだろうけど。

■一方で面白いのは龍の口の法難を描く特撮場面で、なんだかとても小さな雲がむくむく湧き上がって、バリバリと雷撃を繰り出す合成カットがまるで『アウター・リミッツ』なので楽しい。一点俄にかき曇り、ではなく、ほんとにちっちゃな雲がごく近傍からビリビリ襲ってくるから、妙にかわいい。合成カットとしてはさすがに丁寧な仕事で、技術レベルは東宝とくらべても高いのだけどね。

■歴史ドラマとしてはもっと面白くなりそうなところ、長谷川一夫の失笑を誘う熱演だけがぼんやりと記憶に残る残念な大作。弟子の日昭を演じる黒川弥太郎がリアルに上手くて感心したけどね。一方で、上記の法難を目撃して改心する田崎潤が美味しい役のはずなのに、全くその心境の変化が演じられていないので、宗教映画としては大変に困るわけです。宗教映画の一番のキモとなる人物なのにね!

参考

映画だけでは気が行かないから、このあたりの歴史劇をちゃんと描いた小説がないのかと探してみると、なんと帚木蓬生の小説を発見しました。これは読んでみたい!

別に信者ではないけど、宗教映画としては見ごたえがありますよ。
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でも仏教系の宗教映画としては『競輪上人行状記』が最高傑作でしょうね。さりげなく凄い映画だと思います。変格ものとしては『魔法少女まどかマギカ』は必見ですね。
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