あなたの最期は私が看取る!今こそ観るべき友情とスポ根の実話『ナイアド その決意は海を越える』(感想/レビュー)

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基本情報

Nyad ★★★☆
2023 スコープサイズ 120分 @イオンシネマ京都桂川

感想

■ドキュメンタリー畑出身のエリザベス・チャイ・バサルヘリィ&ジミー・チンの夫婦監督(!)が描く、伝説のマラソンスイマー、ダイアナ・ナイアドの偉業。ネットフリックスの製作だけど、劇場公開中なのだ。

■その偉業とは、64歳にしてキューバーフロリダ間180キロを53時間かかって泳ぎきったこと。若い頃に一度挑戦して失敗した経験があり、60歳を超えてからの一念発起、実に5回目の挑戦でついに成功する。

■もちろん最終的に成功したから映画化されたわけだけど、もちろん、そこに至るスポ根要素は興味あるとことだし、たったひとりで成し遂げられる事業でもない。現実的にはコーチも含め、様々な専門家チームによる支援が必要だった。サメ避けの専門家、クラゲの研究者、潮流の専門家。当然のこと、そうしたチームワークの成功でもある。ある意味、『七人の侍』である。だから燃える。特に難題は、サメよりも毒クラゲ対策だった!

■主演をアネット・ベニング(65歳)が演じ、その友人というか魂の恋人である同士ボニーをジョディ・フォスター(60歳)が演じる。両者とも、往年の大物美人女優だけど、何が凄いといって、各人、年齢相応の役柄をほぼノーメークで演じる。当然ながら照明部も変な女優ライトは当てない。だから、顔の皺の刻みも、首筋の縦じわも、体型のたるみも、何もかもドキュメンタルに晒しだす。(それどころか、アネット・ベニングはクラゲよけの奇怪なマスクまで被って、誰だかわからない!)CG補正もない(多分)。そこが最大の見ものだし、それでこその映画。そのリアルな年齢感を描き出すから、私はまだ終わってない!というテーマが輝く。軽率に「劣化」などと呼ぶものは呼べばいい。その皺は人生の経験と智慧が刻み込まれているのだし、その内奥に秘めた魂は死ぬまで「劣化」しないのだ。

ちなみに、日本では吉永小百合岩下志麻浅丘ルリ子といった大女優がこんなふうに年齢相応の素顔と素肌を晒して演じることはほぼありえない。
特にスイマーでもある吉永小百合は、おそらくこの映画に興味を持って観るだろうけど、なんと思うのだろうか。わたしにはアネット・ベニングの真似はできないと思うのか、これなら私だってできる!わたしもこんな役がやりたい!と感じるのか?

■しかも、人物像造形がユニークなのは、明確にレズビアンの映画であり、性的虐待の映画である点で、ダイアナとボニーはレズビアンコンビとして描かれる。映画ではあくまで精神的な友人であるという描き方になっている。ナイアドの唯我独尊な態度に愛想をつかして去ったボニーが戻って来る場面は、あなたの最期はわたしが看取るからのセリフとともに素直に感動的。14歳のときに水泳のコーチに性的虐待を受けていて、その後も水泳会の大御所として君臨し続けたという件は、いま日本で話題のあの事件にそっくりな構図で、まさに今観るべき映画。

■ちなにみに遠距離水泳の場面には嵐の場面などもあり、相当なVFXが駆使されているが、アネット・ベニングの水上シーンでもデジタル合成が利用されているカットがあったような気がする。幻覚シーンなどは当然分かりやすいCGだけど、ナチュラルなロケシーンに混ぜ込んであったような気がしたけど、どうだろう。メイキング記事が気になる。なにしろ撮影監督は『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』『オブリビオン』『トップガン マーヴェリック』などのクラウディオ・ミランダだから、豪華スタッフなのだ。

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