基本情報
現代やくざ人斬り与太 ★★☆
1972 スコープサイズ 92分 @DVD
企画:俊藤浩滋、吉田達、高村賢治 脚本:石松愛弘、深作欣二 撮影:仲沢半次郎 照明:元持秀雄 美術:中村修一郎 音楽:津島利章 監督:深作欣二
感想
■現代やくざシリーズ第6作。さらに人斬り与太シリーズ第一作。だそうです。ホンマか?
■川崎で生まれ育ったチンピラ沖田(菅原文太)は、桜会を名乗って地元やくざ組織に反発するが、矢頭組長(安藤昇)に気に入られ、滝川組との対抗上、矢頭組の庇護を受けることに。だが、関西から巨大組織が侵攻したことからパワーバランスが崩れ。。。
■深作欣二は過大評価だというのが自説なんだけど、この映画もじっさいそう感じるなあ。封切り当時の迫力とか衝撃性は確かにあったろう。暴力とエロスの釣瓶打ち。それが当時のモード(流行)だ。でも、今見返すと、実は熱いものが感じられない。というか、深作欣二は熱いものを込めたのだが、今になるとテーマ性が断絶していると感じる。映像スタイルは仁義なきシリーズのそれをすでに完成していて、ラフでメリハリのある照明効果も含めて、実験的であり、実践的な成果は感じられる。実際『仁義なき戦い』は仲沢半次郎のキャメラで撮るつもりだったという。
■脚本を石松愛弘が書いているのは、佐藤純弥と組んで先鋭的な傑作を書いていたので、俺にも書いてよというパターンか、企画の吉田達があてがったものだろう。でも石松愛弘という人は、監督の志向や好みに忠実に合わせた書き方をする器用な人で、増村保造と組めば、増村本人が書いたのかと思うような、いかにもな図式的なメロドラマを書くし、佐藤純弥と組めば左翼独立映画のような構図で描く。同様に本作の場合は、深作好みに書いたということだろう。文太と渚まゆみの愛憎劇が、深作的な肝だったのだろう。佐藤純弥と組めば、こんな男女関係は書かないからね。佐藤純弥は女にはあまり興味がないらしい。そこが深作との大きな違いで、深作は男女関係のグズグズした部分をわりと念入りに描こうとする。本来活劇志向で活劇テクニックに天性のある深作が、なぜそこまで女にこだわったのかは、興味深いところ。
■でも、チンピラ魂に殉じる形で巨大組織の前に潰えるという図式劇も、渚まゆみとのメロドラマに足をとられて、なんだかテーマ性があやふやだし、佐藤純弥なら絶対テーマ性を優先するところだ。そもそも、田舎から出てきた途端にチンピラたちに犯されて、その首謀者と愛し合うようになるという筋書きは、今観るとナイーブできついし、それを跳ね返すだけのテーマ的な説得力も盛られていない。熱狂的な空気感は確かに佐藤純弥のクールに狂った映画にはないものだし、それに酔うことができた時代は確かに存在した。でもね、今観ると佐藤純弥の安藤組モノなどのほうが、よほどテーマ性が先鋭的だし、ドキュメンタルな歴史劇に見えるから不思議だよね。