若者は常に時代の「炭鉱のカナリア」だ!『ワンダーウォール 劇場版』

基本情報

ワンダーウォール  ★★★☆
2020 ヴィスタサイズ 68分 @DVD
作:渡部あや 撮影:松宮拓 照明:宮西孝明 美術・山内浩幹 音楽:岩崎太整 監督:前田悠希

おはなし

■僕らの大好きな近衛寮が取り潰しになる!そんな一方的な通知を受けて、寮生は学生部に抗議にでかけたけど、肝心の三船(中崎敏)は窓口のキレイなお姉さん(成海璃子)に何も言えないし、志村(岡山天音)はお姉さんの胸元に見とれているばかり。キューピー(須藤蓮)、お前らそれで本気で闘う気があるのかよ!(byマサラ)

感想

NHKで放映されて、いち早くブログで紹介した『ワンダーウォール』の劇場版で、少しカットが追加されたけど、大きく変わってはいない。改めて見直すと、やはり終盤が弱くて、やはり90分はほしいところ。前田悠希の演出も、必ずしも的確ではないブレが見えて、十分に焦点を結ばないシーンがある。特に岡山天音が演じる志村というキャラクターは、脚本家の取材に基づいたイメージとしては寮生のなかで重鎮として一目置かれる要となる人物らしいけど、そうは描かれていない。対する三船も十分に人格が描かれるわけではなく、見た目で補っているわけだけど。

■そうした弱点も明らかになるのだが、映画版では近衛寮のその後が字幕で追加される。というか、これ単に京大吉田寮の辿った時系列を整理しただけで、もはやフィクションである建前をかなぐり捨てている。2019年、大学は寮生たちに対する民事訴訟を提起する。当該大学が学生を訴えるのは、創設以来かつて例のないことだった(らしい)。

■ちなみに、ドラマは2017年3月に副学長(学生部長)が辞任して潮目が変わったと描くけど、史実では2015年の夏から秋のことだった。山極総長、杉万副学長時代のことだ。もともと寮生には従前の対応通り一定の理解を示していた杉万副学長は急に態度を硬化し、寮生から強烈な反発をくらい、その後、持病の悪化を原因として突如辞任する。後任の川添副学長は強硬路線を正式に継承することになる。2015年に学内で何があったのか。ちょうど第3次安倍内閣のタイミングだ。ちなみに杉万先生がまだ助手だった時代に社会心理学を教わっている身なので、ホントに心中お察ししますけどね。。。

■なお、自分自身のツイッターでは以下の通り記録している。吉田寮への対応が強硬路線に転じたのち、大学はさらに大きな方針転換を行っている。(具体的に何があったかは、ここでは言えません!)

2017年11月15日(水)1 tweetsource
11月15日@mari_koji
まり☆こうじ@mari_koji

既に戦後は終わり、時代は戦前へと移行したことを、ニュースではなく、身近な出来事で実感し、戦慄した。次の戦争は近い。

タモリが「新しい戦前」といって話題になったのは2022年のことだけど、それはずっと前から始まっていた。そのことを明確に示していたのは、常に社会の中で「炭鉱のカナリア」である学生たちの行動だ。少なくとも6年前にはすでに潮目は変わっていた。それにしても、そのことをたまたま察知して、普遍的な問題を含んだドラマとして社会に問う渡辺あやの尖鋭ぶりは際立っている。というか、そんな役割を誰かに負わされているとしか思えない。このドラマ、映画もきっと何十年かして再発見されるに違いないと、今から予言しておくよ。


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