基本情報
黒の試走車 ★★★☆
1962 スコープサイズ 94分 @アマプラ
企画:中島源太郎 原作:梶山季之 脚本:舟橋和郎、石松愛弘 撮影:中川芳久 照明:泉正蔵 美術:山口煕 音楽:池野成 監督:増村保造
感想
■何回か見ているけど、改めて観ると、戦後に対する世代的な対立の構図がテーマであったことがよくわかる。というか、その要素が思いの外強く打ち出されていることに驚いた。もともとは経済小説で、表向きのテーマは産業スパイのお話だけど、実際のテーマ(隠し玉)は、今も生き続ける戦争と、戦争に対する世代間の相克なのだ。すらすらとわかりやすい経済犯罪映画に、よくもまあこんな高度なテーマ的な重層性を盛り込んだものだと感心する。原作小説はもっと複雑だったらしいので、相当に大胆な脚色を行った。そして、実質的にメインで書いたのは石松愛弘だ。石松愛弘、凄いな。
■ヤマト社の産業スパイの大物馬渡(菅井一郎)は関東軍の特務機関の生き残りで、その頃のネットワークを今も駆使して、ライバル会社を追い打ちしようとする。一方、タイガー社の小野田企画一課長(高松英郎)は馬渡と競い合ううちに、手段を選ばない法令無視の産業スパイとして過激化して、主人公の朝比奈(田宮二郎)から馬渡と一緒だと糾弾される。背広を脱いで、カーキ色の軍服を切るべきだと指弾される。
■馬渡はまさに戦前、戦中戦争の怪物だし、小野田はその後の戦中、戦後世代だけど、上の世代と競争するうちに、知らぬ間に前世代と同化してしまう。ミイラ取りがミイラになる。さらに朝比奈は戦後世代で、そんな旧い世代との同化を拒否する。その世代間の断絶を撃つ物語なのだ。単なるサラリーマン残酷物語ではなくて、戦争と敗戦に関する世代間の捉え方の違いをあぶり出したお話なのだった。今まで、あまり気にならなかったけど、実はそこがキモなのだ。
■そういえば、後の『女体』でも、俺達の戦後はおまけみたいなものだと述懐するのは、青年期に敗戦を経験した増村の真情だろう。ちなみに、世代的には小野田課長がまさに自分自身の世代で、そこに一番気持ちが入っている。だから若い世代の朝比奈の改心は取ってつけたように見えてしまう。それは明確な弱点だ。
maricozy.hatenablog.jp
■一方で、田宮二郎と叶順子の短い尺での合いびきの工夫は見どころがあり、キャメラの構図(人物配置、空間の捉えかた)も含めて、かなり凝った趣向になっている。口紅で「X=8」と書く場面(カッコいい!)とか、馬渡からもらった指輪(もともと満州の王族の持ち物)にキスする(というか、舐める?齧る?)場面とか、エキセントリックな演出が際立つけど、叶順子、確かにふてぶてしくて良いんだよなあ。ハリウッド映画経由でありながら、ありきたりの日常的な趣向では収まらない増村演出の独創的な虚構性が、この時代にはまだ成立していたのだ。


