特攻映画の異色作『出撃』

基本情報

出撃 ★★★
1964 スコープサイズ 100分 @アマプラ
企画:柳川武夫、大塚和 原作:高木俊郎「遺族」 脚本:八住利雄 撮影:横山実 照明:河野愛三 美術:松山崇 音楽:佐藤勝 特殊技術:金田啓治 監督:滝沢英輔

感想

■知覧基地から沖縄に向けて特攻隊が次々に出撃していくが、川道少尉(伊藤孝雄)だけは何度もエンジン不調で引き返してくる。基地の近くには東京から最後の見送りだけはしたいと嫁(芦川いづみ)が滞在していたが。。。

浜田光夫和田浩治らの若手も出ているし、劇団民藝から芦田伸介宇野重吉滝沢修らも続々登場するからしっかり大作仕様なんだけど、企画に大塚和が絡んでいて、助監督や製作進行に民芸映画社のスタッフが入っているので、ちょっとユニークな素材だし、作風になっている。それこそ原作が「遺族」というタイトルなので、特攻映画だけど、出撃する若者よりも、見送った遺族の真情に寄り添っている。そこを中心となって演じるのが芦川いづみで、そのモノローグが重要な役割を担う。

■実際の主役は劇団民藝の伊藤孝雄だけど、青春群像劇という仕立てで、浜田光夫が主役扱いになっている。でも、実は出番は少なくて、なぜか戦記映画では浜田光夫は脇に追いやられる運命なのだ。隊の弟分と死んだら蛍になって靖国神社で会おうと約束するけど、弟分が先に散華し、残された浜田は、料亭の庭に飛ぶ蛍が弟分の魂で、自分を迎えに来たのだと泣く。まあ、悪くないエピソードだけど、あまり響かないなあ。
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■特攻作戦に志願しながら何度も果たせずに戻って来る若者の虚無感を描いたのは後の『大空のサムライ』が極めつけの傑作で、ドラマ部分も分厚いし、川北特撮が絶品だったけど、本作はやはり芦川いづみの役どころにユニークさがあるだろう。

滝沢英輔は戦前からのベテラン監督で、敗戦の経緯や、敗戦後の日本の姿に大きな違和感を抱いていて、例えば『十六歳』という完全に反米的で左翼的(むしろ右翼的?)な傑作を撮っているけど、この時代にはかなり穏健になっていて、本作でも芦川いづみのモノローグで、それなりに主張はしているが、基本的におとなしい。これが増村保造なら、もっと激しく自己主張をするだろうし、愛する者を奪い去ったものを呪詛するだろう。それによって女優がもっと輝くはずだ。本作でも、そんなニュアンスはあるんだけど、全然弱い。八住利雄の脚本に切実さが足りない。

■実質の主演が、演技が硬いので有名な、というか硬質な演技で有名な(?)伊藤孝雄というのは、中平康の『密会』とか『学生野郎と娘たち』が良かったよねという実績ありきのことだろうな。まあ、大塚和が仕切る劇団民藝と民芸映画社ラインの仕事だからそうなんだけど。
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