基本情報
現代っ子 ★☆
1963 スコープサイズ(モノクロ) 96分 @DVD
企画:水の江瀧子 脚本:倉本聰、弘田功治 撮影:姫田真佐久 照明:岩木保夫 美術:大鶴泰弘 音楽:佐藤勝 監督:中平康
感想
【最終更新 2022/4/11】
■警察官の父を事故でなくした3人兄妹(鈴木やすし、市川好朗、中原千夏)は親戚や友人の家に分かれてゆくが、男兄弟は親戚宅を嫌って隅田川の荷役を担うダルマ船に住み込むことになるが、居候先の老人(嵯峨善兵)は定年間近で荒れていた。。。
■なんでも昭和38年当時のNTVのテレビドラマとして放映されたものを映画化したらしい。本来日活リアリズム路線に属する企画のはずなので、大塚和が担当すべきだが、何故か水の江瀧子が製作担当。期待されていた中平康に監督を委ねたが、中平康はこうした社会主義的リアリズム路線とは肌合いが違うのだ。そのことは本作を観るとよく分かる。『当たりや大将』の失敗も同じ見誤りだと思う。
■そもそも、何が言いたい脚本なのか判然としない。貧乏の中で三人兄妹がたくましく生き抜く話なのか、現代っ子としての新しいセンスや生き方を描こうとしたのか。父親の葬儀をケチケチ路線で仕切って黒字を出すあたりが現代っ子らしいエピソードといえるが、リアルではないし、特に面白くもない。
■舞台が当時の隅田川の荷役を担って、トラックよりも大量の物資を効率的に運搬したという河川運輸の実態に移ると、姫田チームの機動的でリアルなキャメラアイが冴えてくる。艀の船頭のじいさんがドラマの中心に浮上してくるのも興味深いところだが、肝心の筆が上滑りだ。一応運輸会社の社員で定年間際なんだけど、陸地に定住せず、艀で生活する水上生活者だ。実際、当時はそうした生活者がまだ多くいたらしい。他にも同様の住民が集まっているのだから、当然差別問題が絡んでくるはずなのに、そんな問題意識は見られない。普通に考えれば素材としては若杉光夫が撮るのが妥当で、その場合、脚本はもっとリアルで社会的な視点をさり気なく織り込んでくるだろう。まあ、もっと地味な映画になるけど、テーマ性は明確になる。
■松原智恵子も舟屋に住んでいて、鈴木やすしと夜のデート中に、市川好朗が艀の袂から川面でポットンと排便する場面などはなかなか傑作な場面。現代っ子の生態を中途半端に描くよりも、艀で生活する水上生活者のこうした生き方を描いたほうが映画としてはずっと面白くなったはずだね。
■ドラマのクライマックスは会社を定年で去り、いまさら陸の仕事も生活も心もとない老人が艀で川を遡上してゆく場面で、本来ならもっと感動的になる場面だが、誰が主役なのか、テーマもはっきりしない脚本のせいで、一向に盛り上がらない。
■鈴木やすしの起用も意味不明だし、特別な魅力があるわけでもなく、中山千夏に至ってはもっと配役に意味がない。正直、三兄弟である意味があまりない。市川好朗に絞って普通の社会派児童映画にしたほうが、ずっとすっきりすると思うぞ。企画開発の失敗作だね。
参考
中平康は真正面からのリアリズム映画は苦手なのだ。もっと戯画化した視点で社会的なテーマに斬り込むのがスタイル。でも『その壁を砕け』は見事な成功作だったしなあ。不思議だなあ。
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
水上生活者たちの実態はこちらの記事で。最初からこっちのドラマを描いたほうが面白い映画になったはずだよね。
hamarepo.com
小栗康平って東宝映像でチーフ助監督やってて、テレビではゴジラも撮っているけど、映画デビューは『泥の河』って、渋すぎ。なので、東宝映像の浅田英一も助監督で参加してる。脚本の重森孝子は東宝シナリオ研究生出身で、東宝系だし。でもキャメラマンには東宝系ではなく日活から安藤庄平を連れてくるんだね。こうしたリアリズム素材は日活系のスタッフが上手いことを知っている。それに、重森孝子は浦山の愛人だった人だし、絶対浦山桐郎のこと大好きだよね。 → そもそも小栗は浦山桐郎の弟子を自称してますね。東宝で助監督に付いたからだね!