■劇団民藝とこまつ座の合同公演で、この6月に収録された舞台録画。当然、NHKでの視聴です。詳細は、以下の通り劇団民藝のHPが簡潔にまとめてくれています。
2021年6月17日(木)~27日(日)
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAご好評につき再演決定!
新劇から出発して新派で活躍した初代・水谷八重子(1905~1979)。「世の中がいまより少しでもましになりますように」という新劇の考え方に影響を受け、〈女優〉という新しい職業の確立をめざした時代の先駆けとして知られています。戦前・戦中・戦後。とある病院を舞台に、新派を愛する人びとによって語られる八重子の芸と生きざまとは。井上ひさし流の爆笑とユーモラスな筆致で、「滝の白糸」「婦系図(おんなけいず)」「日本橋」「明治一代女」など新派劇の代表的な舞台や名台詞も散りばめられて物語が展開します。初演は水谷八重子十三回忌追善・新派特別公演として1991年新橋演舞場で上演。ひさし版〈昭和と女優〉ともいえる傑作戯曲を、初の民藝+こまつ座提携でご覧いただきます。
【上演時間】
第一幕40分(休憩10分)第二幕70分(休憩10分)第三幕45分
休憩含め計2時間55分
■この演目は、水谷八重子十三回忌追善・新派特別公演として誕生した経緯をまずは理解しておく必要があるだろう。太平洋戦争末期から終戦後にかけての庶民のお話をなぜ水谷八重子を絡めて語るのか、その必然性が腑に落ちないところがあるからだ。
■実際のところ井上ひさしの戯曲には個人的には当たり外れがあると感じていて、しっくりこない物もいくつかある。本作も、古橋医師と花代の恋物語の部分はあまりピンとこなかったな。花代を客演で有森也実が演じていて、すっかりおばさん(いい意味で)になった貫禄が感じられて感慨深いものがあった。いつまでも『キネマの天地』や『星空のむこうの国』の娘じゃないもんね。(我ながら古いなあ。何十年前だか)
■役者陣では警官を演じる吉田正朗がおもしろいキャラクターだったな。もちろん台本の台詞がよくかけているわけだけど。日色ともゑがおばあさん役ですからね、全盛期を支えた大物俳優がほとんど物故して、すっかり世代交代した劇団民藝の、まさに今を観ることが出来ましたね。篠田三郎が劇団民藝所属になっているのも吃驚でしたが。
■日本初の女優として新劇でキャリアを始めながら、新派に転じた初代水谷八重子のキャリアをおさらいしながら、新派舞台の名場面を再現してみせる趣向だけど、正直水谷八重子の凄さを知らないわれわれにとっては、今ひとつ響かないのだな。ちなみに初代水谷八重子は戦後に戦争犯罪人の母を演じた『嵐の中の母』とか雷蔵の『忠直卿行状記』の忠直の母とか、母もの女優というイメージだったようだ。