日活沈没!そのとき松尾嘉代は東宝で絶叫する!『幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形』

基本情報

血を吸う人形 ★★★☆
1970 スコープサイズ 71分 @アマプラ

感想

アマゾンプライムビデオでHD版を観ましたよ。さすがにピカピカの画質で、解像度も高いし、色調もかなりこってりめ。肌色の発色はなかり濃いと思う。これまでの経験上、映画館でニュープリントで観た場合は、もう少し淡彩になるだろう。

■それにしても贅沢な映画でビックリした。もちろん、低予算映画だけど、とはいえ東宝の分解直前の、旧東宝撮影所体制のスタッフワークが生きている。もちろん、美術装置はまだこのジャンルに十分馴染んでいなくて、特に野々村屋敷の内装を白っぽく配色したのは色々と支障が出ている。特に照明効果に影響が大で、怪奇映画らしいシャープな陰影が生み出せない。それでも、60年代に映画やテレビドラマで大量に製作された怪奇映画の雰囲気はスタッフの脳裏に刻まれており、怪談モノならこんな感じの照明すりゃいいんだろ?と照明部のおじさんも心得たもの。原一民の撮影はどちらかといえば軟調で都会的なタッチが身上だと思うけど、ここでもその持ち味と幻想味がうまくマッチしている。特に疑似夜景の活かし方はさすがに上手い。

■同じ照明マンでも次作の『血を吸う眼』の怪奇映画照明が完璧だったのは、美術装置を年季の入った質感の黒っぽいムードで仕上げたおかげだろう。西垣六郎の硬質なタッチの撮影もよくマッチしていたしね。

■本作はセットの壁やドアの装飾も安手で、彫刻ではなく、なんとなく凹凸を描きましたって感じの仕上げで、材質の安っぽさがそのまま映し出されている。それでも、トータルとして全く問題を感じさせない演出と配役の充実ぶりに感動する。

■クレジットトップは松尾嘉代で、中尾彬カップルになるのだが、そもそもこの二人は日活のニューフェース出身で、松尾嘉代は60年代後半から東映などに出演するし、中尾彬も70年にフリーになっていたようだ。粗暴な使用人を演じる高品格ももちろん日活の人。おまけに裏主役ともいえる南風洋子劇団民藝の所属(ちなみにご主人は民芸映画社の監督および劇団民藝の演出家の若杉光夫)で、劇団民藝は日活と全面的に提携していたので、こちらも日活との関係が解消するか解消寸前で制約が弱くなった時期ゆえの東宝出演だ。そもそも東宝は日活映画の脇役でうまくて目立つ人には注目していて、西村晃とか小池朝雄なども日活映画で観た人が東宝に呼んできたらしい。堀川弘通監督からも直接そう聞いた。

■あらためて演技的な充実ぶりにも感心したが、上記のメンバーがそもそも上手いのに加えて、浜村純とか、二見忠男とかの脇役の使い方も絶妙。宇佐美淳也がいまいち座りが悪いのは、当時あまり映画で見かけなかったため。今回感心したのは、クレジットトップゆえか、松尾嘉代の熱の入り方が違うことで、ちょっとやりすぎな部分もあるが、特に終盤に屋敷で悪い奴らに追い詰められるあたりは、熱演が光る。考えてみれば、本作は松尾嘉代の唯一の主演映画ではないか。

■本作で奇跡的なのは意外なほど合理的な脚本が仕上がったことで、小川英とか長野洋の資質によるところ大だろうし、後に怪奇小説家になった田中文雄のサジェッションも大きいのではないか。まあ、完全に彼の趣味の世界だと思うけど。終戦の混乱時の凄惨な強盗殺人事件、強盗犯人の娘だと噂される娘、催眠術で彷徨い歩く魂なき死美人。そして因業な運命によって崩壊する疑似家族。そうしたある意味旧い道具立てが、東宝らしい都会的なシャープさとバタ臭さで語られる、その語り口。

■ある意味で、ザ・ガードマンの怪談シリーズではドラマ的、演技的、演出的にこれに匹敵するエピソードもいくつか存在したのだが、あれは基本的に怪談を騙った犯罪ドラマなので、純粋に怪異を描く怪奇ドラマではなかった。映像表現としては、当時の最先端の恐怖演出、怪異描写が存在したが、そのレベルをクリアする映画はなぜか存在しなかった。時代劇なら60年代後半にいくつも傑作が生まれたが、現代劇ではなかなか成立しなかった。本作の参考試写として『吸血鬼ゴケミドロ』が上映されたが、あれも松竹京都撮影所の仕事であり、どうしても垢抜けない部分が残ったものだが、同じ佐藤肇でも、大映テレビのスタッフでザ・ガードマンを撮ると、見違えるようにシャープで美しくなる。そんな時代に、唐突に完璧に近い怪奇映画が誕生したのだ。

■それにしても、小林夕岐子はほんとうに宇佐美淳也の娘だったのか?本当は怪しい使用人、高品格との不義の娘ではなかったのか。高品格の執拗な攻撃の理由は、単に野々村家への忠節ではなく、南風洋子が絶妙に演じる野々村志津への愛情が隠されていたのではないか。多分、脚本家や監督の脳裏にはそんなアイディアも意識されていたような気がする。もう少し時間があれば、そこにアプローチする余裕もあったかもしれない。


参考

今平の『にあんちゃん』は松尾嘉代のデビュー作で、ほんとにおぼこい、可愛い少女だった。
maricozy.hatenablog.jp
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本作と同時上映されたのが『悪魔が呼んでいる』ですね。こちらには大滝秀治北林谷栄劇団民藝から参加。
maricozy.hatenablog.jp

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