わたしは死刑囚と結婚した女!忘れられた実録社会派恋愛映画の秀作『愛と死のかたみ』

基本情報

愛と死のかたみ ★★★☆
1962 スコープサイズ(モノクロ) 102分 @アマプラ
企画:芦田正蔵 原作:山口清人、山口久代 脚本:棚田吾郎 撮影:高村倉太郎 照明:大西美津男 美術:坂口武玄 音楽:小杉太一郎 監督:斎藤武市

感想

■長崎原爆で両親をなくし、終戦後ぐれて強盗殺人事件を起こした死刑囚(長門裕介)と文通を続ける福井の娘(浅丘ルリ子)は地元の有力者の跡取り(波多野憲)から求婚されていたが、求婚者がそのことを知って婚約解消を切り出したとき、自分を真に愛しているのは誰かということを問い直す。。。

■1962年に発表されてベストセラーになったらしい(さすがに生まれていない!)実録原作をさっそく映画化したもので、明らかに後年の大ヒット作『愛と死を見つめて』の企画に繋がっている。企画者は違うけど、監督も同じだ。もちろん実際にあったお話で、つまり共著者の山口清人氏はそのときすでに死刑が執行されていたのだ。

■脚本は棚田吾郎で、かなり当たり外れがある人という印象だが、ハマると非常に見事な脚色術を発揮する。本作も成功作で、二人の独白や手紙の文面を積極的に利用しながら、かなり複雑な二人の境遇や関係性の変化を効率的に描きながら、しっかりと省略もきいていて、さくさく時制も進行し、展開に淀みがない。その話術に驚く。舞台は博多と福井を行き来し、さらに長崎まで足を伸ばす。悲劇の淵源には長崎原爆の惨禍があったことを静かに訴えるのも異色だ。

■監督は斎藤武市なので、もちろん演出ぶりも悪くはなく、二人が何度か刑務所で面会する場面などは、さすがに静かな感動に包まれる。ふたりとも声を落として、ほとんど吐息で囁くような、親密で緊迫した会話。このあたりの演出には全く抜かりがない。ハリウッドならアカデミー賞を取るくらいのレベル。一方でもう少し粘ればいいのにと感じる部分もあり、特にラストの浅丘ルリ子の受ける衝撃についてはもっとキチンと押すべきだろう。これが熊井啓ならもっと溜めを作って、音楽効果込みでガーンと泣かせるところ。(まあ通俗ですが)

■でも素材のユニークさとともに、死刑制度の理不尽さを静かに訴える社会派映画として再評価が必要だと感じる。死刑囚の再審請求をめぐって、教会を中心として社会活動に発展する件も描かれるが、棚田吾郎なのでそこはさらっとしていて、これも熊井啓ならもっと正面からゴリゴリ硬派に押すところ。その意味では物足りない部分は残るけど、死刑囚の置かれた人道的に非情な境遇とその心理を静かに的確に描いてしまった点はもっと評価されるべき。刑務所の内部はもちろんセットだけど、重要な場面なので、かなり大規模な贅沢なセットが組まれているのも贅沢。

■配役も豪華で、福井の牧師が滝沢修で、福岡の刑務所では永井智雄がいる。特に秀逸なのが、例によって色悪を演じる波多野憲で、浅丘ルリ子の同級生役の松尾嘉代との結婚が破綻すると再審請求に協力するふりをしてルリ子を呼び出して無理やり関係しようとする根っからの卑劣漢だ。1960年の『学生野郎と娘たち』では芦川いづみを手籠にしたことで注目された(?)全女性の敵だ。劇団民藝の若手だったはずだが、完全にそんな色悪キャラで売っていたのね、日活では。

参考

これは日活の「愛と死」シリーズなのか?あるいは三部作?でも全部完成度が高く、たんなるメロドラマではない意欲作。
maricozy.hatenablog.jp
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