俺は時勢ってやつが大嫌いなひねくれ者でね!『江戸一寸の虫』

基本情報

江戸一寸の虫 ★★☆
1955 スタンダードサイズ 123分 @アマプラ
企画:水の江滝子 原作:中野実 脚本:菊島隆三、大塚道夫 撮影:永塚一栄 照明:森年男 美術:小池一三 音楽:佐藤勝 監督:滝沢英輔

感想

■日活製作再開初期の新時代劇シリーズの一作だけど、新国劇と組んだ作品と比べるとかなり見劣りする。ムダに長いと感じる。

■幕府の外人犯罪に対する大甘な裁判に立腹した旗本は職を辞して野に下るが、新徴組に利用されてユスリ、タカリで攘夷の活動資金を工面する日々。自分を慕う若侍が暴走して外人を殺害し、自害すると自身の不甲斐なさを悟って、自首して投獄される。六年後に官軍がやってきてこれからは天子様が一番偉いんだと赦免される。幕府の要人もすっかり新政府に尻尾を振るご時勢に上野戦争が勃発すると、、、

■正直『六人の暗殺者』と似ているので、同じことを繰り返している印象になるし、主人公に共感できないので、端的に失敗作だと思う。『六人の暗殺者』は素直に主人公に共感でき、最後に辿りつく境地も自然と納得がいくが、本作はひねくれ者の旗本に共感する余地がない。

■決して誠実な人間ではなく、女にだらしないダメ人間として描かれていると思うが、三國連太郎ゆえに、普通の人間には感情移入が難しい人間像になっている。これが例えば勝新なんかだと、もっと裏表のない直情径行の単細胞、でもひねくれ者という親しみやすい(?)人間像になるのだろうが。

滝沢英輔の意図としては、戦中、戦後に態度を豹変させた人々への不信感が重ね合わされており、鬼畜米英と唱えていた人々があっという間に民主主義の虜になる、神様だと言い張っていた天皇が、実は人間です、テヘペロ!と宣言してしまう、そいう時勢に流されやすい人間、日本人に対する批判を描くのが本作の趣旨だし、それは今日もそのまま通用するのだが、主人公に誠実さがないために、ピカピカのテーマまで濁って見えてしまう残念作。


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