民主主義者・竜馬を斬ったのは誰だ?幕末を舞台に描く、今ここにあるリアル!『六人の暗殺者』

六人の暗殺者

六人の暗殺者

  • メディア: Prime Video

基本情報

六人の暗殺者 ★★★☆
1955 スタンダード 108分 @アマプラ
企画:佐野博 脚本:菊島隆三 撮影:藤井春美 照明:湯川大四郎 美術:武村四十一 音楽:佐藤勝 監督:滝沢英輔

感想

■クレジットはされないが、複数の資料で製作は東京プロとされており、日活は製作再開当初より外部プロダクションからの作品供給を当てにしていたようだ。東京プロは星野和平が設立、佐野博も所属していたらしく、他にも日活では『大利根の対決』、新東宝では『慟哭』などを製作しているようだ。日活の製作再開時代にはこうした外部プロデューサーが活躍したらしい。1954年に調布の日活撮影所を開所させているが、外部プロ製作ということは、本作では使用していないのではないかと思われる。
■さて。びっくりするほどの理想主義的民主主義者で、尊王活動が薩長の覇権争いに堕落していることを批判して、真に必要なのは封建制の打倒だと主張する戦後民社主義の権化のような坂本龍馬滝沢修!)が六人組によって暗殺された!かつては裏切り者竜馬を切るつもりだった伊吹(島田正吾)だが、その人間平等の真理を理解し竜馬に心酔するようになっていた彼は、犯人を探って江戸に向かう。。。
■製作再開当初の日活では新国劇と提携して意欲的な時代劇の傑作を残したが、その一本。菊島隆三がいつものように骨太で熱っぽい現代的な時代劇を書いている。江戸末期を戦後にダブらせて、竜馬にデモクラシーの理想を語らせ、統幕、維新断行の理想を忘れ、死に体の江戸幕府に対して武力を行使し、権力闘争いに変貌した薩長同盟の陰謀に激しい批判を加える、非常に政治的な映画でもある。菊島隆三は党員ではないが、戦後大きく期待されながら変節を遂げて当時の若者たちの理想を打ち砕いた共産党などの左翼陣営に対する批判も込められているだろう。
■当然ながら、宮城野由美子演じるおしんと伊吹のメロドラマも並行して描かれるが、これも菊島隆三なのでそつがなく、単なる添え物、色付けのエピソードではなく、信実のこもった描写になっている。彼女は伊吹を一貫して熱望し、真犯人と一緒に果てたいという願望を押し止め、ボロボロでも無様でも生きてゆくことを選択させる。その強い意志がしっかり描かれているから立派。
■昔観ているはずだがほとんど覚えていなかったので、新鮮な気持ちで観てしまったが、主人公は幕末の混乱を生き延びて明治に入って新聞社を起こして政権批判を行っているのだった。もちろん政府に執拗に弾圧され、土佐で再起を図ることにする。武器で決着を付ける時代は終わったのだ。このあたり、まったく昔話ではなく、昭和30年当時もリアルな現実だったろうし、令和の時代に観ても、今ここにある現実そのものを見ている気がする。そして、それこそが時代劇の作られる理由であり、値打ちなのだ。
■そして、追い続けてきた暗殺実行犯の首謀者と偶然に遭遇し、ラストで薩摩藩内でのどす黒い陰謀の存在と、そのために利用され棄てられた男の悲哀と懺悔が描かれる。これを演じるのが辰巳柳太郎で、中盤で主人公に実行犯かと問い詰められ、子供っぽく心底嬉しそうに、そして自慢気に一言「やった!」と告白する秀逸な場面と、ラストの悲壮さはなんとなく覚えがある。不世出の名優だ。
www.nikkatsu.com


参考

maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
敢えて黒澤組を除いてもこれだけ観てますね。菊島隆三は後に黒澤プロの経営に関わり、経営上のトラブルで袂を分かつことになります。作風は構成が骨太で、メロドラマも上手いという印象があります。特に『不滅の熱球』は知られざる傑作でした。
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp

© 1998-2024 まり☆こうじ