叛乱
1953 スタンダードサイズ 115分
レンタルV
原作■立野信之 脚本■菊島隆三
撮影■小原譲治 照明■矢口 明
美術■松山崇 音楽■早坂文雄
特殊技術■新東宝特殊技術
監督■佐分利信 応援監督■阿部 豊
2.26事件を描いた立野信之の原作の映画化で、監督の佐分利信が病気で倒れたため、後半は阿部豊がメガホンをとったらしい。それがどのシーンからなのかは不明。
後の小林恒夫の「銃殺」と同じ原作だが、今作は北一輝と西田税を大きく取り上げたところが特徴だろう。北をカリスマ性とは程遠い鶴丸睦彦に演じさせて、その神がかりをコミカルに造形したあたりの視点の置き方がユニークで、むしろ思想的背景と現実的な影響力としては西田税(なぜか新東宝ではいい役を貰って新劇の重鎮に相応しい堂々たる名演を残す佐々木孝丸!)に重きを置いている。最後の銃殺の直前には北が「私らも天皇陛下万歳をやりますか?」という問いに「いや、私はやめておきましょう」と史実に忠実に応えさせているあたりも腰が据わっている。
作者は2.26の青年将校たちには一定の距離を置いているようで、必ずしも同情も共感も抱いていないようだ。「銃殺」で鶴田浩二が演じた安藤大尉を細川俊夫(!)が演じているが、家族内の描写は無いし、疲弊した農民の姿を知って決起を決意するエピソードも「銃殺」の方が抒情的に成功している。この映画の価値は、事件の顛末を、非情ともいえる力強さで、しかも淡々と提示してゆくところにあるだろう。決してドキュメンタルな映画ではないし、真意がどこにあるのかもわかりにくいところがあるが、とにかく重厚な配役や製作スケールの大きさのおかげもあって、2.26映画の決定版とはいえるだろう。
磯部浅一が山形勲で決起軍の実質中心人物として大活躍、相沢中佐が辰巳柳太郎でちょっとだだけ特別友情出演、真崎大将が島田正吾(特別友情出演)で、出番は少ないが異様に重厚な怪人物として演じ、ひとりだけ時代劇の世界から迷い込んだよう。山下泰文が石山健二郎で、「白い巨塔」同様のイケイケの軍人を怪演している。他に事件の野次馬に高島忠夫、兵隊のなかに天知茂が出演している。
なお、史実では決起軍が昭和天皇の代わりに担ぎ出そうとしていた秩父宮を巡るエピソードは全く無く、天皇に対する各人の様々な思いに対してもあくまで淡々と接している。