鴈治郎のお墨付き!扇雀♥千景『「元祿忠臣蔵・大石最後の一日」より 琴の爪』

基本情報

「元祿忠臣蔵・大石最後の一日」より 琴の爪 ★★★
1957 スタンダードサイズ 53分 
原作:真山青果 脚本:菊島隆三若尾徳平 撮影:山崎一雄 照明:城田正雄 美術:北猛夫 音楽:佐藤勝 監督:堀川弘通

感想

東宝のダイヤモンド・シリーズ第六篇だそうです。東宝のダイヤモンド・シリーズは、二本立て興行のB面番組ながら、良心的な作品を供給しようとするもので、千葉泰樹の、人の何気ないエゴイズムが招く悲劇を描いて、ほんとにゾッとする傑作映画『鬼火』もこの路線から生まれましたね。こうした小品佳作の流れは、後年テレビに受け継がれました。東芝日曜劇場の単発ドラマシリーズなどに似てますね。

■さて。吉良邸討ち入り後、幕府の処分を待つ大石内蔵助松本幸四郎)を筆頭とする赤穂浪士平田昭彦藤木悠田中春男ら)たち。あわよくば命だけは助かるのではと希望的観測にすがる面々の中、最若年の磯貝十郎左衛門中村扇雀)はひとり悟りきったように死を覚悟している。大石はそのあまりの迷いのなさにかえって若さゆえの危うさを感じる。腹を召す段になって取り乱すようなことがあっては武士の恥だからだ。一方、討ち入り決行のため偽装婚約したおみの(扇千景)は信実磯貝を愛しており、磯貝の本心を確かめるため、ひと目だけでもと小姓に男装して細川家に上がろうとするが、大石に見咎められ、この期に及んで磯貝の心をかき乱すことのないように説得される。。。

■監督は常に黒澤明の弟子として紹介される堀川弘通で、だいぶ前に監督のお宅にお邪魔する機会があったときに、ちょうど2005年に中村扇雀が四代目坂田藤十郎を襲名した少し後だったので、襲名披露の贈り物が飾ったことを記憶している。この作品は中村扇雀扇千景の馴れ初めのとなった映画なので、人間国宝も堀川監督には恩人として特別な思い入れがあったようだ。じっさい、この映画の扇千景はびっくりするくらい美形で綺麗なので、一目惚れするのも当然。なんと映画の封切りは結婚発表、引退発表の後だったようだ。

■ただ、当時の東宝のタッチでは、時代劇らしい陰影には乏しくて、妙に照明も明るく、雰囲気が十分に出ないし、演出にももう少し緩急が欲しいところだし、メロドラマとしても少々食い足りない。脚本は菊島隆三なので、おみのの情念を結構念入りに描いてはいるけど、終盤の展開はあっけない気がする。最後の最後の瞬間、磯貝の心に本当に動揺はなかったのか。そこを映画的に描かないと値打ちがない気がするのだ。死に対する恐怖、おみのへの恋慕の情、この世へのあらゆる心残り、それらが彼の中にどんな心模様を描くのか、それを映画的に物語るところに映画的工夫が求められる企画だと思うが、まあ、中編映画なのでそれはないものねだりか。

■また、伊藤大輔の1955年の『元禄美少年記』という同様の趣向の小傑作があるから、個人的にはどうしても評価が辛くなる。あれは鮮烈な青春映画の傑作だったけど、忘れられた映画なのだ。ああ、勿体ない。


参考

▶堀川監督はむしろサスペンス映画で持ち味を発揮する気がするなあ。1961年の『別れて生きるときも』は女性映画路線の秀作だったけど、記事を書いてないなあ。
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
▶舞台版も観てました。全く忘れていた。こちらのほうが面白かったような記憶だけ残っているけど。
maricozy.hatenablog.jp

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