裕次郎に惚れ直す!何故か忘れられた日活ムードアクションの佳作『帰らざる波止場』

基本情報

帰らざる波止場 ★★★☆
1966 スコープサイズ 88分 @アマプラ
企画:児井英生 脚本:山田信夫中西隆三 撮影:横山実 照明:藤林甲 美術:千葉和彦 音楽:伊部晴美 監督:江崎実生

感想

■ジャズピアニストの津田(裕次郎)はヤクザ絡みの事件で誤って恋人を殺害し、3年の刑期を終えると復讐を誓って横浜の街に戻ってきた。そこで出逢ったのは、芦屋の資産家の未亡人冴子(ルリ子)で、夫殺害の嫌疑がかかる「疑惑の女」だった。女は豪華客船で日本を脱出するまでの8日間、わたしの友達になってと持ちかける。。。

■日活ムードアクションは一通り観ているが、何故か今まで見る機会がなかった作品で、アマプラに入ってやっと観られた。あまりテレビでもやってない気がするし、多分ビデオも出ていないという不遇な作品なのは、何か訳があるのだろうな。でも、予想以上に良い映画なので感激もひとしお。裕次郎はすでにボスの風貌だけど、この時期の裕次郎、やっぱりいい!最高だ。

■一方のルリ子もすでにキャリアのピークを迎えており、本作では特にそのファッションセンスに異色がある。明らかに作品の時代風景から少し浮いたハイファッションで、翌年の『紅の流れ星』もそうだったが、60年代後半というよりも、すでに70年代を先取りしている。横浜の裏街のうらぶれた情景のなかで、明らかに存在感(見た目?)が浮いていて、関西から流れてきた国外脱出者の疎外感をビジュアル的に納得させる。
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■ドラマの舞台となるのは日活名物の場末の安ホテルだけど、実にリッチな美術装置なのでこれも陶然とする。その主人が武智豊子で、使用人がその息子で、少々頭が弱いというのも、完璧。日活映画はこれでなくちゃ。

■ヤクザのコカインルートをあぶり出すために裕次郎を執拗に付け回す老刑事がなぜか志村喬で、すでに老境に入っている時期によく起用したものだ。明らかに年寄り過ぎで、本来なら西村晃などがドンピシャなんだけど、そうすると「傷だらけの天使」になってしまう。でも、この役はどう考えても西村晃だよなあ。志村喬では年寄りすぎるわ。

■主題歌はもちろん「帰らざる波止場」。でもこの歌初めて聞いたぞ。つまりヒット曲ではないとおうことか。主題歌がヒットしなかったから、忘れられた映画になったのだろうか。でも、この楽曲がこの映画の生命線で、とにかく繰り返し流れるので、嫌でも記憶に残るし、陰気な曲想だけど、実際良い主題歌なのだ。

■もちろん、主題歌の流れる場面には工夫が凝らしてあるけど、本作の趣向は絶品。監督の江崎実生は活劇場面を何故かコミカルに撮ってしまうので困惑するけど、メロの部分の演出は万全だ。裕次郎が海辺のイタリアンレストランでピアノの弾き語りで歌う場面と、ルリ子が夕景の横浜を彷徨う情景をカットバックした終盤のシーンは傑作と言って過言でない。夕暮れの横浜の海を船で渡るルリ子の何気ないワンカットのスケッチ風のロケ撮影の神々しさが凄い。『狼の王子』といい、この時期のルリ子は即興的なロケ撮影に映画の神を降臨させるのだ。何このシネフィル殺し。
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■コカインの密輸絡みの暴力団壊滅作戦のエピソードが冴えないのが最大の弱点で、完全に取ってつけたような作劇になっている。対する、裕次郎とルリ子の屈折した憂愁のメロドラマの部分は上出来で、主題歌の使い方も含めて傑出している。メロの部分を山田信夫が書き、活劇部分を中西隆三が書いたと言われれれば、ああやっぱりねと納得する用意はあるが、実のところどうなのか。

■もちろん『望郷』などのフランス映画の名作に憧れた映画なのだが、この時期、これほどフランス映画の古典に対する信仰告白を隠さない映画も珍しいのではないか。でも、当時の映画人はフランス映画の古典が大好きだったし、まだ若かった(大学出たての)市川森一だって、そうだった。それにジュリアン・デュビビエって、いまやほとんど忘れられた名匠だけど、ほんとに良い映画撮って、叙情好きの日本人には特に大きな影響を残した人なのだ。本作もその系譜の逸品。江崎実生も再評価が必要だなあ。

■でも、冒頭の恋人誤殺事件の描写とか、ホントに東映並みに雑な演出なので、あまり期待しすぎるとガックリくるかもしれませんよ。一方、主題歌は、歌謡曲としては不発に終わったけど、映画のテーマ曲としては満点の出来栄えなのだ。これは観れば納得の快事件ですよ。

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