怪談というよりもむしろ正統派時代劇ですよ!『令和元年版 怪談牡丹燈籠』

基本情報

令和元年版 怪談牡丹燈籠 ★★★
原作:三遊亭圓朝 脚本:源孝志 撮影:朝倉義人 美術:吉田孝 演出:源孝志
https://www4.nhk.or.jp/P5858/www4.nhk.or.jp

感想

■NHKBSで放映されたもののあまり話題にもなっていないようなので、ここできちんと評価しておきたいスペシャルドラマ。夏場恒例の怪談ドラマでもあるのだが、実はかなり本格的な正統派時代劇になっている。怪談ドラマとしては正直物足りないが、オーソドックスな時代劇としてはなかなかの力作なのだ。制作はNHKエンタープライズとオッティモ。TBSで伝説的な名作ドラマを手掛けたあの八木康夫プロデューサーが定年後にこんなところで活躍しているとは。

■4部作の構成なので、全部で約4時間というミニシリーズ。圓朝の原作に忠実に、お馴染みのお露&新三郎の怪談話とお露の実家の飯島家のお家騒動を完全に並行して描いているのがユニーク。で、結局のところは飯島家のお家騒動のほうがメインで、怪談話はいわば脇筋なのだ。このあたりの脚色は源孝志のこだわりだろう。だから主演はお露&新三郎ではなく、尾野真千子演じる悪女お国なのだ。そして、その相方の柄本祐のカップル。現世に居場所がない似たもの同士の不遇な二人の出会いが旗本飯島家を呪ってゆく。対する古典的な封建主義的正義が若葉竜也演じる孝助。ただし、飯島家の当主が「変態紳士」こと高嶋政宏なので、ちょっと衆道っぽい雰囲気が漂うのだが、明らかに演出の狙いだろう。

■牡丹燈籠のお話でいちばんのお楽しみは伴蔵&お峰の小悪党夫婦だが、ここでは段田安則と、なぜか犬山イヌコが演じている。小悪党の身につまされる人間味、面白みとしては山本薩夫版の映画などに全く及ばないのだが。

■病弱な飯島家の妻が急逝してから何かに魅入られたように飯島家乗っ取りを画策し始めるお国と隣家の放蕩息子源次郎の悪縁の綾と、父の敵と知らず飯島家に仕官した孝助が二人の悪だくみに気づき飯島家の忠犬として二人を追い詰める皮肉な物語が後半の見せ所で、クライマックスはチャンバラで決着を付ける。源次郎を演じる柄本佑柄本明のエリート教育で古い日本映画を見まくっているので、当然東映時代劇の傑作も見知っているはず。そのかいあって、崩れた悪の魅力を何とか出しているし、クライマックスのチャンバラもなかなかカッコいい居合抜きを披露する。源孝志の志はこちらにあったことは確実だ。孝助に「お前に何が分かる」と投げかけるお国の虐げられた者の呪いと反抗に作者の気持ちは寄り添っていて、実に正統派時代劇の佇まいなのだ。まさにこれぞ東映時代劇!

■ただ、源孝志の演出はいつものようにソフト&マイルドで、基本的にテンポはゆっくりしている。たぶん、お年寄りの視聴者を意識したものだろう。腕が飛んだり、豪快に血が噴き出したりしても、それは崩れない。だから怪談部分の怪異表現や恐怖演出には優れたものが見当たらない。VFXも含めて新味はないし、お露にいたってはなぜか吸血鬼と化している。実際のところ、東映プロパーの監督が撮ったほうが、怪異描写についてもエッジが効いた演出になっただろう。実績のある兼崎涼介だって、 濱龍也だっているからね。おまけに、彼らはチャンバラの撮り方も上手いぞ。

■改めて考えてみると、孝助と源次郎はともに飯島平左衛門の剣の弟子という設定なんだけど、これは衆道の暗喩で、ふたりとも平左衛門の文字通りの愛弟子なんだね。たぶん源次郎は若い頃、隣家の殿様平左衛門に愛されたけど、捨てられて世を拗ねて出奔した。その後、平左衛門の寵愛を独占したのが孝助で、当然のことそれを知った源次郎の内心は穏やかでない。だから、クライマックスの一騎打ちは師である平左衛門亡き後の真の愛を勝ち取るのは誰なのかという恋敵同士の決闘であったわけだ。そういうドラマだったから本作の真の主役は平左衛門を演じる高嶋政宏であって、なかなかこんな含みのある役を演じられる俳優もいないわけで、見事な配役であったわけです。

■あと、本作は江戸時代に忠臣蔵四谷怪談が最初に作られ舞台にかかった時に同じ事件の裏表として並行して語られたのと同様に、孝助の敵討ちと牡丹燈籠の怪談が並行して語られるので、実は2本のドラマに分割することができる。お露&新三郎のラインを抜き出せば純粋な怪談ドラマだし、孝助の捻じれた仇討ちを抜き出せば、正統派の時代劇になる。もともと圓朝が意識的に忠臣蔵になぞらえてそう作ったのだろうが、さすがに凝った趣向だ。


参考

maricozy.hatenablog.jp
こちらが原作小説です。小説とはいってももとは落語なので、口述筆記ですが、これが二葉亭四迷によって言文一致体の現在の小説の原型になったというのは、学校で教わった有名な話。

山本薩夫のとにかく文句なしの名作。伴蔵&お峰コンビが西村晃小川真由美で、これ以上ないくらいのはまり役。大映京都の映画職人による映画美の極致。美しすぎて、面白すぎる怪談映画。maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
源孝志のドラマは、何気なく結構見てますよね。あまり思い入れも無いのだけれど。
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
ついでにこのドラマももっと評価してあげて。兼崎涼介監督の東映京都作品。チャンバラ場面、ホントに凄いんですよ。
maricozy.hatenablog.jp

© 1998-2024 まり☆こうじ