テレビ朝日開局55周年記念番組『宮本武蔵』★★★★


■原作・吉川英治、脚本・佐藤嗣麻子、撮影・唐沢悟、美術・吉田孝、音楽・服部隆之、CG・長谷川靖、アクション監督・谷垣健治、監督・兼崎涼介

■正直なところ、キムタク主演というだけでスルーする予定だったのだが、東映京都制作で、監督が東映京都期待の若手、兼崎涼介で、しかもアクション監督が谷垣健治ということで、これは必見と思い直した。そして実際、予想以上の意欲作だった。

■とにかく谷垣健治アクション監督の殺陣が凄くて、おそらく『るろうに剣心』の大ヒットの影響が大きいのだろうが、この起用は大成功。『るろうに剣心』は未見だが、是非観ておかなければならないだろう。

■本作のキモはなんといってもチャンバラの物凄さに尽きる。ドラマ的には色々と文句をつけることは可能だが、いまどき珍しい大剣戟の圧倒的な迫力はテレビのレベルを大きく超えている。吉岡道場殴りこみ、三十三間堂の一騎打ち、一乗寺下り松の決闘と大きなチャンバラの見せ場をいかに斬新に見せるかというのが本作の主眼だが、これが見事に大成功している。昔の時代劇では時にチャンバラの凄さだけに特化した映画が生まれたものだが、今時そんな時代劇が誕生するとは思わなかった。宮本武蔵といえば内田吐夢の五部作、特に第4作の下り松の決戦の壮絶さが語り草だが、本作の大チャンバラは決してこれに負けていないのだから凄い。

■撮影には堤幸彦とのコンビで有名な唐沢悟を起用しているのも異色で、ドラマ部分はがっしりと構えた安定感ある構図で時に長廻しで情感を狙い、アクション場面は絶妙なブラし加減でキャメラを振る。さらにアクション場面の編集も絶妙で、動体視力の限界ギリギリのところで勝負しながらハリウッド映画のように誤魔化しには堕していない。香港映画でも編集で刻みすぎて凄い体技が台無しになってしまうケースはあるから、本作のさじ加減は丁度いい按配。

■ドラマ的にはお甲と朱実のエピソードがどうも掴みどころが無く、ひょっとすると脚本の構成が編集時点で変えられている可能性もあるが、カットしても良かったかも。又八のエピソードに絡むので完全にオミットするのも無理があるのだが、あれではあまり意味が無い。それでも兼崎涼介の演出が思いのほか堂々としており、若手監督らしい意欲的な大殺陣とともに、時に綺麗なカット割りで、時にじっくりとした長廻しで、実に的確にドラマを描き出す。正直、キムタクの演技に感心するシーンが幾つもあったし、あのアクションをこなしただけで、単純に敬服した。宮本村のタケゾウ時代の髪型だけもう少し時代劇らしくなんとかしてくれれば、もっと褒められるのに、そこは残念だなあ。

■総じて、これだけの斬新なチャンバラ活劇が見られれば、なんの文句も無い。チャンバラ映画を刷新する画期的なドラマだったと思う。

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