大停電の夜に ★★★☆

大停電の夜に
2005 スコープサイズ
ユナイテッドシネマ大津(SC2)
脚本■カリュアード(源孝志相沢友子
撮影監督■永田鉄男 照明■和田雄二
美術監督■都築雄二 音楽■菊地成孔
VFXスーパーバイザー■石井教雄
監督■源 孝志


 クリスマスイブの東京を大停電が襲った。何組かの男女がそれまでの自分にけじめをつけるために少しずつ動き始め、奇妙に絡み合ってゆく・・・
 「東京タワー」(未見)を発表したばかりの源孝志が早くも放つ新作は、いかにも昔のフランス映画風の美術装置とフランス帰りの撮影監督による、ちょっとお洒落な・・・人情ドラマだ。
 それぞれのエピソード自体は特によく出来たものでもなく、その絡め方も例えば三谷幸喜のように巧くはないのだが、それぞれの役者の演技は無意味な誇張がなく、良質の演技のアンサンブルを構築している。その点において、この監督の技量は伊達ではないだろう。
 しかし、なんと言っても見所は日本映画らしからぬ美術装置とキャンドルを巧く使った照明設計の妙に尽きる。そこにビル・エヴァンズや菊地成孔のジャズが流れて、大停電の東京の路地がフランスの下町のように見えてくる不思議さがこの映画の命だろう。
 中途半端な鯰ヒゲだけは始末したほうがいいと思うが、豊川悦司は久々にいい演技を見せるし、彼に絡む田畑智子がこの映画でもっともチャーミングな役柄を演じて役得。田畑智子にとっては「お引越し」以来の代表作といえるだろう。おそらく監督は「アメリ」を意識しているのだろうが。
 原田知世がすっかり気の強そうな大人の女の貫禄を身につけて、自然な存在感を発揮しているのは頼もしいが、井川遥はおいしい役のはずだが、顔がむくみすぎて観ている方が辛い。
 淡路恵子宇津井健の夫婦は、宇津井健のほうがいい味を出しており、近年の枯れた味の宇津井健大映テレビ時代には無かった深みを感じさせる。スーパー・ジャイアンツから始まってこの境地にたどり着くことができれば、役者冥利というものだろう。
 謎の物体が変電所に墜落して爆発、送電線が美しくショート、大東京の停電、降り出す淡雪、とVFXチームは大活躍で、リアリティとファンタジーのバランスのとり具合において成功している。
 それにしても東京大停電という絶好の映画的シチュエーションを、こんなに軽く扱われてしまっては他の映画作家が困るのではないだろうか。サスペンスだってアクションだって、SFだって成立する設定なのだから。


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