マスターズ・オブ・ホラー「愛しのジェニファー」 ★★★☆

愛しのジェニファー [DVD]

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  • マーク・アッチェソン
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ダリオ・アルジェントの映画を観たのは、20年ぶりくらいかもしれないが、この一編はいつものアルジェント節ではなく、非常に理知的によくできた脚本をストレートに撮っている。そして、非常に魅力的な作品となっている。正直、ダリオ・アルジェントにこれほどの演出力があるとは思っていなかった。

■ジェニファーという魅惑的なボディを持つ怪物に魅入られた警官が堕落してゆく様をサスペンスと情感を込めて描いたあたりは、とても素晴らしい。終盤が何故か駆け足で、情感の溜めがもうひと押し欲しいところだが、意外や意外の良作。70分くらいの尺が欲しかったところだ。この脚本なら、ほとんどこのままで、日活ロマンポルノに再生できる。池田敏春などが撮っていれば、傑作になっただろう。

■煎じ詰めれば、男にとって女とは何なのかということがグロテスクな寓話として描かれる、秀逸なサスペンスであり、メロドラマである。成瀬の「浮雲」とか石井輝男の「残酷・異常・虐待物語 元禄女系図」の第二話を思い出した。明らかに人間ではない、森で拾った女ジェニファーが、人を喰った後に、猫や犬のように主人公にじゃれつく様は、絶望的に哀れでもあり、愛しくもある。

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