マスターズ・オブ・ホラー「ゾンビの帰郷」★★★★

イラク戦争で死んだ米兵がゾンビとして蘇る事件が続発、彼らの望みとは次期大統領選挙に投票することだった、という誰しも思いつきそうだが、あまりにストレートすぎて二の足を踏むに違いないアイディアを正面から扱った反戦映画。なぜ、ジョー・ダンテがこの原作を選んだのか知らないが、映画としての面白みもたっぷりだし、直接的にメッセージを語りながら、教条主義的にならないのは、さすがの資質だ。

■原作はデイル・ベイリーという人だが、どの程度原作に忠実なのだろうか。このシリーズは正味60分程度の中篇なので、詰め込みすぎという気もするが、この原作なら90分で観たかった。英霊がゾンビとして復活するというところに、新味がある。というか、それをやってはみもふたもないので今まで誰も手を出さなかったということだろう。しかし、ジョー・ダンテはしっかりと真正面から描ききり、コミカルであり、哀しくもあり、それでいて一番強調されているのは、素朴な怒りである。蘇った白人兵士のゾンビを息子よと呼び止める黒人夫婦のエピソードは、迂闊にも泣かされる。ジョー・ダンテの映画で泣くなんて、ひどい不意打ちだ。

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