エコノミック・アニマルは団地に潜む!『しとやかな獣』

基本情報

しとやかな獣 ★★★
1962 スコープサイズ 96分 @アマプラ
企画:米田治、三熊将暉 原作・脚本:新藤兼人 撮影:宗川信夫 照明:伊藤幸夫 美術:柴田篤二 音楽:池野成 監督:川島雄三

感想

■敗戦時の惨めな困窮生活の反動から、息子(川畑愛光)が芸能会社の金を使い込んだり、娘(浜田ゆう子)は小説家(山茶花究)の妾になって家に貢ぐことなど当然と開き直る前田家(伊藤雄之助山岡久乃)だが、娘は小説家に愛想を尽かされそうになるし、息子は会社の会計担当の女(若尾文子)に騙されていたことが発覚し。。。

■戦後日本映画のベスト100とかにも入ってくる川島雄三の代表作だけど、何度観てもそれほどの傑作?というのが正直なところ。新藤兼人の自信作でもあるのだが、改めて観ても、ラストのあたりの演出が不十分だと感じた。

■筋運びの工夫や台詞の面白さはさすがに新藤兼人なのでグイグイ見せるし、川島雄三がこれでもかと奇抜なアングルを探し出して、というか捏造して、ありえないところにキャメラが入る。スコープサイズの画角の中で考えられるアングルをすべて使うという気迫が凄いし、アグファカラーの渋い発色が堪らないのは事実。

■敗戦の惨めな生活だけは二度と味わいたくないという思いからエコノミック・アニマルと化して、汚い手を使って金を儲けても構わんじゃないかという戦後日本の戯画化を試みたのはよくわかるし、砂上の楼閣のような巨大団地の一室を舞台として限定したのも良いし、芸能会社の会計担当の女史が会社の金をかすめて旅館を建ててしまうのも見事な手口だし、帳簿みてもわからないようにしているから怖いのは税務署だけだけど、担当署員(船越英二)を色気で籠絡してあるから大丈夫というあたりの帳簿処理を巡るリアリティも見事なもの。

■でも、それゆえに砂上の楼閣に大きな亀裂が入る最後の出来事についてはもう少し違う演出があってもよかった。新藤兼人はこうしたところをさらっと書く人なんだけど、演出でもうひと押し欲しい気がするのだ。まあ、同じことは三隅研次の『斬る』でも感じるので、新藤兼人の作風と割り切るべきかもしれないが。

■戦後派バカ息子を演じるのが川畑愛光という人で、本作よりもむしろ対照的な気弱な文系の若者を演じる『傷だらけの山河』の方が良いと思う。小沢昭一ピノちゃん(ピノサク)という偽外人を演じて完全にコメディ・リリーフなんだけど、小沢昭一って、大映東宝ではコメディアン扱いで脇役になるけど、日活では本来の新劇俳優として真面目に上手いので調子が狂うよね。最近まで小沢昭一を誤解してたもんね。

■もちろん若尾文子高松英郎も演技的には充実してるんだけど、まあ増村保造の映画で見た感じですよね。いつもの、あの調子。といっても絶頂期なので見事なもんです。

参考

川畑愛光は『傷だらけの山河』を観てくださいよ。とても良いんです。
maricozy.hatenablog.jp
川島雄三は正直ピンとこないところも多いです。なぜか『雁の寺』の記事がないし。。。
maricozy.hatenablog.jp
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