THE WIND THAT SHAKES THE BARLEY
2006 ヴィスタサイズ 126分
DVD
■IRAに身を投じてアイルランド独立戦争を戦った兄弟が、英愛条約に対する方針の違いから内戦状態の中で対立を深めてゆく・・・
■アイルランド戦争、アイルランド内戦のなかで悲劇的に引き裂かれてゆく兄弟の姿を通して、イギリスとアイルランドの不幸な関係と、その中に潜む普遍的な悲劇のメカニズムを透徹した視線で描き出した傑作。当然ながら過去の事件をとおして、人間と国家の関係、組織と個人の関係のなかに生まれ出てくる、今なお世界情勢を混沌とさせる普遍的な要因を見つめている。
■物語の基本構成としては極めてオーソドックスなのだが、控えめでいて簡潔なストーリーテリングが、アイルランドの地を覆う悲劇性を際立たせる。緑豊かなアイルランドの地ののどかな情景のなかで、戦闘訓練に明け暮れるIRAの若者たちを抒情的に描いた場面の痛ましさは静かに心を打つ。英国に対する独立闘争の方針をめぐって若者たちが内戦状態に陥り、かつての同士を虐殺することになる悲劇は、あらゆる組織運動に付き物の陥穽であるが、その悲劇性を静かに訴えかけて、素直に胸を打つ。
■そして、物語の中心地点に置かれるのは、冒頭で自分の名前を英語ではなくゲール語で発音した青年が英国軍になぶり殺しにされ、その後も様々な悲劇に見舞われることになる、主人公の恋人の家である。この家を中心として、アイルランドの悲劇性を定点観測するという設定もまた卓抜した着想である。ケン・ローチの映画はその昔京都シネマで「ケス」を観て以来だったが、非常にオーソドックスな演出で感心した。