この自由な世界で ★★★☆

IT'S A FREE WORLD...
2007 ヴィスタサイズ 96分
京都シネマ

この自由な世界で [DVD]

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  • キルストン・ウェアリング
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■一人息子をかかえるシングルマザーのアンジーカーストン・ウェアリング)は、搾取される派遣生活に嫌気が差し、外国人労働者を差配する派遣業を立ち上げるが、資金繰りに窮することに・・・

■「麦の穂をゆらす風」の印象もまだ新しいケン・ローチの最新作がやっと京都でも公開された。たった96分というのはプログラム・ピクチャーのランニングタイムだが、無駄の無い脚本と演出のおげで、非常に濃厚な映画になっている。ドラマとしては正攻法の展開で、前半は少々図式劇の弊害が感じられたが、主人公アンジーの欲深さが暴走しはじめる後半のどす黒い展開は、現実世界の複雑さをリアルに感じさせてくれる。

■ここで描かれるのは、日本で考えれば中下層から下層階級の人間達だが、階級社会であるイギリスでは労働者階級の物語と定義される。労働者として搾取されることに納得できない自尊心が高い鉄火肌の女が、さらに下層に位置する外国人不法就労者を搾取する物語であり、さらに因果応報に収まらない社会階層間の相互関係の恐ろしい実相を提示して、ずっしりと重い。一方で外国人労働者たちに対する素朴な同情を示しながら、他方で彼らを陥れることを恥と思わない鉄面皮の持ち主という複雑な人間性を、しかしリアルに感じさせるドキュメンタルな演出は、ハリウッド製のデジタル技術で厚化粧した映画には無い清々しさを感じさせる。というか、こちらが正常な映画の作り方で、ハリウッド及びハリウッドを真似したがるアジア(日本を含む)映画のほうが異常なのだ。ケン・ローチといえば既に老巨匠なのだが、感性の瑞々しさには感服する。

■主演のカーストン・ウェアリングというブロンドのお姉さんはセックスも含めて自分の欲望に正直で、それが”この自由な世界”の具現となっているのだが、息子を一人かかえながらぎりぎり色気盛りという風情が良い具合にこの映画自体の色気になって、殺風景な世界観にハリを与えている。なんとなく、アンジー・ディキンソンに似ている気がする。

この自由な世界で (字幕版)

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