やさしくキスをして ★★★☆

AE FOND KISS...
2004 ヴィスタサイズ 104分
DVD

スコットランドグラスゴーカトリック系高校の音楽教師は、パキスタン移民二世の女子生徒タハラの兄カシムと出会い恋に落ちるが、イスラム教徒である父母は二人を引き離そうとする。しかも、カシムにはパキスタンに許婚がいたのだ・・・

ケン・ローチ絵空事ではなく、地に足の着いた恋愛劇を見せる小品佳作。冒頭、いきなりタハラが、キリスト教徒というだけでブッシュとローマ法皇と掃除夫を一緒にできないように、50各国に住むイスラム教徒を十派一からげにして語るなと学校で演説するシーンから始まり、人種と宗教が恋人たちを引き裂いてゆく姿をリアルに描く。

■音楽教師よりもカシムとその一家の描写が中心で、インド出身の父親がヒンズー教徒とイスラム教徒の対立を経てインド独立の際にパキスタン九死に一生を得る脱出を図ったことがカシムの口から語られ、一家の歴史が異教徒との恋愛に反応するその理由が説得力を持って語られる。メロドラマのありようとしては、昔の日本映画(特に松竹映画か)にも多くあった筋立てだが、家族内で孤立するカシムに、ジャーナリスト志望の妹のタハラだけが味方するあたりに、作劇の上手さを見せる。戦後日本映画でも多くの傑作が生まれた、家庭内の世代交代の物語でもある。宗教、国家、コミュニティ、家庭が一組のカップルにどれだけの重圧を及ぼすかということを的確に物語っているあたりが、並みの恋愛劇ではない。

イスラムコミュニティの青年との恋愛(しかも音楽教師は夫との離婚が成立していないのだ)を激しく指弾するカトリックの司祭が登場し、完全な悪役に仕立てられている。音楽教師はアイルランド出身なのでカトリックからは抜けられず、無宗派の学校には移りがたいという葛藤に苛まれることになる。実際のところ、このあたりの実感は、日本人には困難なところなのだろうが、自分がそうであったとしたらと想像してみることはできる。


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