大地と自由 ★★★

LAND AND FREEDOM
1995 スタンダード(トリミング版?) 110分
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■スペイン内戦に義勇兵として参加した共産党員の英国人青年の目を通して、フランコ将軍のファシズムに対抗して共和国政府を成立させた革命の完遂を求めながらも、ソ連共産党スターリン主義的指導を巡って民兵同士の悲劇的内部対立に至るという政治的な戦争映画。もちろん、ケン・ローチの映画なので教条的な映画にはなっていないが、かなり図式劇としての性格が濃く、人間性の造形の点で他の映画に劣っているように思う。主人公の人間性に魅力が無く、狂言回しでしかない。

■スペイン内戦を描いた作品は近年も少なくないのだが、宝塚歌劇の「NEVER SAY GOODBYE」のほうがその悲劇性をよく際立たせていたと思う。もちろん、方法論が全く異なるが、ミュージカル様式と政治的闘争とその悲劇性という組み合わせは、その荒唐無稽さがかえって劇的効果を高めることにつながるようだ。

■正面から戦争映画として描いた点も損をしており、そうした分野ではそれこそハリウッド映画をはじめ世界中にあらゆるパターンの物語が完成されているためだ。近作の「麦の穂をゆらす風」は、戦場と家庭が非常に近接した環境下にあることで、戦争の非情さを、具体性と普遍性を高いレベルで融合させて描き出せた点が貴重だったのだが、本作ではまだ戦場と日常生活は分離している。

■孫娘が死んだ祖父の遺品を整理するうちに、スペイン内戦に参戦した祖父の経験を追体験するという構成は平凡だが、ラストの埋葬シーンは秀逸で、辛うじて約60年前の戦場と(映画の)現在が繋ぎとめられている。多くの戦争映画が同じ構成をとって魂を込めることに失敗しているが、ケン・ローチは小さな戦果をあげている。それは素直に認める。

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