『マイダイアリー』(全9話)★★★☆
■社会人なりたての清原果耶が、2年前の大学3年生のときの仲良し5人組の記憶を回想するというスタイルの青春群像ドラマ。大阪ABCの製作で、制作プロダクションは東映東京撮影所という謎の座組だけど、東映ぽさは皆無、というかマイナス100%くらいです。なぜ東映?
■そもそも清原果耶が主演で、原作ものでないオリジナルドラマなので、意欲作に違いないと判断して、第2話からチェックしたのだけど、この回が妙によくできていたので、一気に引き込まれた。
■仲間の望月歩が経験する謎の美人OLとの邂逅というお話で、このいかにも訳ありそうなOLを是永瞳という人が演じて、ちょっとびっくりする鮮烈な表情を描き出す。そもそも、撮影部も頑張っていて、このOLの部屋全体に雨の影を反映させるという、時々見かける手法だけど、凝った画作りで、OLさんの心の傷みを具象化して見せる。そして、社会って理不尽なものだと切実に嘆く彼女のアップの表情の視線の怖さ。。。ほとんどホラーに見える、このあたりの演出は、穐山茉由というディレクターの腕がいいと思った。ホントに怖いよ。なにか特殊効果使ってるのかな?
■そもそも是永瞳という人は、身長173センチでいかにもモデル風の伸びやかな(でっかい)肢体なのに、空手の黒帯保有という硬派(?)で、アクション映画に出ればいいとおもうのに、実に華奢で脆い風情を醸し出すから凄いね。でも、こんな女性に関わると、ホントに怖いことになるに違いないので、望月くんの判断は正しかったと思う。でも、実は後半に再登場しないかなあと期待している。彼が振り回されて、ボロボロになると楽しいと思うよ。(ドラマ的には)
■雨と傘という小道具の使い方もオーソドックスに上手くて、穏やかな日常風景の中に、きちんとメリハリを仕掛けた脚本は、上出来だと思う。フジの『海のはじまり』なんて、ほんとに間延びしてるし、退屈で5分間も観てられなかったけど、本作は5分観ると、もう途中離脱できない。ちゃんと構成が考えられている。偉い。
■第3話は親友の吉川愛が、過去のトラウマを告白するお話だけど、現実的に怖い体験と、切なくやり切れない思いが交錯する、絶妙なエピソードづくりで、やっぱり脚本家の腕は良いと思う。というか、カップヌードルのエピソードとか、年齢誤魔化してないか?昭和世代じゃないの?
■ゲストの窪塚俊介は、自身の台詞はほとんどがオフで、ナレーションで語られるけど、そのやるせない追い詰められた表情が素晴らしくて、無理に泣かせるような押し付けはないのに、泣かせるよね。その息子の視点も、ホントに一瞬の点描なのに効果絶大で、この作者、作劇がよくわかってる。筋が良いと思う。
■吉川愛の告白を聞いて、数学のギフテッドでありながら留学先で挫折した自分の境遇に重ね合わせて、佐野勇斗が「人生の道の途中に乗り越えられないくらいのものを置いたのは誰?」ていう切実な問題提起、というか問題の規定の仕方もいいし、清原果耶が素直に応えるその答えかたも素敵だ。(でもホントにできるのか?)
■もちろん、みんなの前にその障害物を置いたのは神さまかそれに類する誰かなんだけどね。でも、一人では乗り越えられないかもしれないけど、誰かと一緒なら、だれかの助けがあれば、話は違うのかもしれない。。。そうそう、それが人間だよね。このペースでさいごまで突き進めば、傑作になるかも。
■第5話は、清原果耶が、引き続きギフテッドの佐野勇斗を支え続けることをそっと囁くお話。
■このドラマは、基本的に少女漫画のテイストなんだなと感じる。ありふれた普通の真面目な大学生たちの、些細な学生生活のなかに、ドラマの綾を見出す。しかも、観客の琴線を刺激するフックの作り方が、なかなか秀逸で、随所にちゃんとくすっと笑えるコミカルな見せ場を盛り込む。このあたりが『海のはじまり』との大きな違いだな。
■今回はカレーのスプーンが足と靴の間の隙間にスッポリはまり込むという(小さな)奇跡から、ぎゅっと心を掴む。そして、ギフテッドの生きづらさを片ちんばの靴下に象徴させたお話づくり。ここはかなりねっとりと書きこんでいて、安易に名言とか名台詞で消費されることを拒んでいると感じたな。粘り腰だと感じる。
■そして、謎のお隣さん、中村ゆりが、単なるお隣さんではなさそうな気配を、やっと出してきたぞ。楽しみ。清原果耶のお母さんに何があったのか?
■そして大きなターニングポイントになる第6話ですが、さすがに狙いに狙った「お涙頂戴」回。いわゆる「ヒューマンドラマ」だと毎回これをやるのだけど、そこは抑制がきいていて、毎回こんなのやってるとバカにされることは制作陣もよく分かっている。
■しかし、単なる「お涙頂戴」ドラマではないのはこのスタッフだから当然のことで、清原果耶の台詞がリアルに心を抉る。いままで部屋にそっと置かれていた遺灰の所以をやっと明らかにし、清原果耶と姉の確執を中心に、彼女の母親に対する、というか、若くして病気によって不条理に母の命を奪われたことに対する、消化(昇華)しきれないわだかまりを切実に描く。そこに真実の切実さが感じられるところが凄いところで、若手脚本家の兵藤るりの人間の洞察力と虚構の構築の力技は大したものだし、清原果耶は当然良い。肉親を病気で亡くした経験のある人は、特にこのドラマの真価がよくわかると思う。
■個人的に気になったのは、姉役の菅野莉央の、いかにも書きました!てかんじの輪郭が立ちすぎた眉毛が気になって、深刻なシーンなのに集中できないことですね。もう少し、自然な感じにできないものでしょうか。。。(どうでもいい話)
■演出は、なぜか瑠東東一郎と加藤卓哉の協同演出だよ。何かあったのかな?次回は、謎の隣人にして競馬狂の女、中村ゆりの素性がついに明かされる?どうでもいいけど中村ゆり、若過ぎ!
ついに完結、そして総括
■全10話かと思いきや、9話で終わってしまったのだけど、8話では清原果耶がギフテッドである佐野勇斗のキャリアの邪魔にならないように身を引くという、いつの時代の新派大悲劇?という超古典的な展開に唖然とした。とはいえ、清原果耶から突然そんなことを言い出されて、途方に暮れる佐野勇斗の心情にすっかり感情移入してしまうから、泣かされる。シリーズ前半は意外にも淡々と冷静な語り口で、あまり登場人物を泣かせないように、意図的にしていた気がするけど、後半は毎回よく泣きます。でも、単なる「お涙頂戴」の「ヒューマンドラマ」とは一線を画している。
■最終的に、仲間たちの後押しがあって清原果耶と佐野勇斗は再び結び合うのだけど、「やさしさは水のように循環するもの」だと気づく。5人の気の合う大学生の友人たちの偶然の出会いが奇跡的なバランスで五角形を描き、青春にとりあえずの区切りをつけて、社会に旅立つ。喪失や挫折を描く痛々しい青春ドラマではなく、今の時代らしい「優しさ」と「気遣い」に満ちた青春ドラマだった。観るものの世代によっては、かなり拒否感もあるだろうと思う。一見、甘やかされて育ったナイーブで傷つきやすい世代が、互いに優しさという緩衝材を駆使しながら、モラトリアムを享受しているようにも見えるからだ。
■でも、作劇や演技に関して、毎回ユニークな見どころがあり、映像表現としても、かなり上出来だった。撮影機材は、アリのアレクサとカールツアイスのレンズの組み合わせ。撮影賞ものだと思った。仲間のなかで、ムードメーカーとして振る舞う望月歩という人は、はじめて観たけど、非常に面白いキャラクターで、このドラマの雰囲気を決定づけたと思う。軽薄なようで、とことん善人という難しい役をなんとなく納得させてしまう。一方、数学の天才役の佐野勇斗という人も実はかなり上手くて、感心した。嫌味なく透明感があって応援したくなるよね。B級サメ映画好きなのも好感度だね。
■謎の女、中村ゆりについては裏設定がいろいろありそうだけど、あまり明かされないので、そんな大人いるかよ?と言われがちなところ。なんの仕事してるのかくらいは描けばよかったのに。
■メイン演出は穐山茉由かと思いきや、2本だけで、実質的なメイン監督は瑠東東一郎だった。何かあったのか?基本的には少女漫画の世界観なんだろうけど、オリジナルの脚本にも工夫が多いし、映像も(東映東京制作なのに)予想外にリッチだし、小山絵里奈の音楽も秀逸だったし、いやあ、良いドラマでしたよ。
補遺
■兵頭るりは当然のように向田邦子賞を受賞しました。ホントに当然の結果なので、納得です。満場一致だし、最年少受賞。今後が楽しみだねえ。
https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/nikkangeinou/entertainment/f-et-tp0-250423-202504230000508topics.smt.docomo.ne.jp
参考
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
そうそう、吉川愛は、『アライブフーン』のあの娘じゃないか!
maricozy.hatenablog.jp