そこにAEDがあれば...『わたしは、ダニエル・ブレイク』

基本情報

I, Daniel Blake ★★★★
2016 スコープサイズ 100分 @APV

わたしは、ダニエル・ブレイク [Blu-ray]

わたしは、ダニエル・ブレイク [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: バップ
  • 発売日: 2017/09/06
  • メディア: Blu-ray

感想

■心臓病で就労を医師に禁じられた元大工の老人が失業手当を申請するために四苦八苦する姿と、ロンドンで食い詰めて流れてきた二人の子持ちのシングルマザーの貧困にあえぐ姿を交差させて、いまここにある、労働者階級の舐める辛酸を描いた、いかにもケン・ローチらしい地に足の着いた傑作。特定のイデオロギーを足掛かりにするのではなく、ある意味平凡な人間の素朴な怒りから社会の成り立ちそのものを静かに糾弾する。その揺るがぬ視座と劇化の手つきが、なかなか他の映画人の追随を許さない孤高な姿となっている。
■既にかなり前の作品になるが『この自由な世界に』と直接つながっている感じがするリアルタイムな世界観と、全く無理強いが感じられないシンプルな作劇で、なんでこんなに深いドラマが作れるのかと不思議な気がする稀有の作品。ケン・ローチの演出は奇抜なことはなにもしないというドクメンタリー発の発想法なので、作劇の巧みさは名コンビのポール・ラヴァ―ティの脚本によるのだろう。この映画が脚本通りに撮られているなら、たぶん誰が演出してもそうとうな傑作になっただろうと思うが、ホントに上手い脚本だと思う。
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■社会的な、あるいは世界的な大きな問題をホームドラマに翻案して語る手法は、古くから観客に馴染みやすい語り口としてポピュラーなものだが、その好見本と言えるだろう。日本では松竹映画が得意とした手法だが、他社でもいくつも事例がある。黒澤明の『生きものの記録』なんて、まさにそうした作劇手法の特異点であった。ただ、その手つきはいかにも技巧的だし不自然だ。(でもその無理くりの技巧が愛おしい映画)
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■イギリスの社会保障制度の実態がどんなものなのか直接は知らないのだが、ここで描かれた姿がリアルなものであるとすれば、イギリス相当ヤバいぞ。誇張がどの程度入っているのか気になるところだが、あまりにも理不尽で官僚主義的なので、完全なフィクションに見えるほど。でも、ケン・ローチなので、今ここにある現実をベースにしているはず。遣る瀬無さもここに極まる。そして、極まったところから怒りに反転する。
■タイトルの意味は、終盤に明らかになるのだが、主張の内容自体は今までもある意味言い古されたものではあるものの、その提示の仕方が作劇的に上手いので、世界中の誰が観ても感動するし、素直に納得できてしまう。だからケン・ローチの、ダニエル・ブレイクの、「怒り」に同期してしまうのだ。何も難しいことは望んでいいない。ごくシンプルな単純なことを願っているだけなのに、なぜ伝わらないのか、そのもどかしさを全世界で共有したとき、何かが少し変わるのかもしれない。

わたしは、ダニエル・ブレイク (字幕版)

わたしは、ダニエル・ブレイク (字幕版)

  • 発売日: 2017/09/06
  • メディア: Prime Video

参考

ケン・ローチの映画はやっぱり良いですよね。実は『ケス』もリバイバルのときに、昔々の京都シネマのスクリーンで観てますよ。さすがに昔過ぎて旧HPにも記録がありませんがね。

『麦の穂を揺らす風』は文句なしの傑作ですね。凄い映画。
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『この自由な世界で』も”今ここにある現実”をさらっと掬い上げて劇化してみせた、シビアで良い映画だったよね。
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この映画も実に良くできた劇映画で、映画脚本のお手本のような作劇。まるで松竹映画なんだけど、あまり知られていないような。みんな観てね。
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本作はケン・ローチではなく、息子のジム・ローチの監督作ですが、非常に面白い映画ですよ。実際にあった事件の実録の面白さ、興味深さと映画的切り口、劇化の視点の面白さ。知られざる秀作ですよ。
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