■連合軍の超大規模作戦、マーケット・ガーデン作戦の遂行と挫折の記録を実録タッチで綴った3時間映画。連合軍の大失敗を超大作映画として製作するというのはかなりひねくれた製作者にちがいない。すべてが作戦通りに進行せず、最終目標の橋に到達できずに終わる大消耗戦の疲弊感をリチャード・アッテンボローは誠実に描き出している。A BRIDGE TOO FAR
1977 スコープサイズ 175分
BD
■作戦は90%成功だった。ただ、あの橋はちょっと遠かった、と無邪気な総括を下すブラウニング中将には悪い意味で痺れる。空てい部隊の落下傘降下を雄大なロケ撮影で描き出すあたりはさすがに一世一代の見せ場で圧巻と言っていいが、最終的にこの映画の趣旨は官僚主義に支配された戦争の無意味さと悲惨を訴えることにあり、そのことは十分に成功している。『史上最大の作戦』ではドイツ軍内の官僚主義が暴きだされていたわけだが、今回はちゃんと連合軍も同じ穴の狢ですよと暴いてみせる念の入った骨太の戦争映画だ。
■こういう主題なら邦画界には橋本忍という名人がいるのだが、東宝の田中友幸はそういう視点は好まないから、東宝の戦争映画にはこうした作風の映画は生まれなかった。連合艦隊の官僚主義ゆえの失敗などを暴かせれば絶妙な筆を振るったはずだが。まあ『太平洋の嵐』も決して悪くは無いが、もっと抉った戦記映画が見たかった気はする。『史上最大の作戦』も『遠すぎた橋』も戦勝国ゆえ軍隊に対する郷愁が無いのが特徴で、一方、東宝戦記映画は、戦争には反対だが、滅び去った旧日本帝国の軍隊には複雑な郷愁を抱かずにはいられないという屈折した心情を吐露するところに妙な味わいがあるのだ。