茶々 天涯の貴妃 ★★☆

茶々 天涯の貴妃
2007 ヴィスタサイズ 128分
MOVIX京都(SC7)
原作■井上靖 脚本■高田宏治
撮影■栢野直樹 照明■杉本崇 
美術■吉田孝 音楽■海田庄吾
特撮監督■佛田洋 監督■橋本一

東映期待の星、橋本一がはじめて大作時代劇を手掛けるということで、期待して初日に出かけましたが、悪いけどこれはすべってます。文句の付け所は際限なくありますが、脚本の段階の問題が大きいでしょう。和央ようかの演技的な問題や、見た目の問題も大きいですが、まずは茶々という女の性格が掴みきれないというか、一貫していない点が問題。

■しかも、高田宏治の脚本が物語としてまるで面白くない。史実を平板に辿っているかと思えば、終盤にはスーパー時代劇に変転し、大坂城大爆発というファンタジーに集約するという、観客を戸惑わせる構成は如何なものか。ヒロインに和央ようかを迎えた時点で、最初からファンタジー時代劇にすべきだったのではないか。逆に実録時代劇とするなら和央ようかには無理だし、佛田洋の大特撮もいらないのではないか。そう考えると、昨年の「大奥」は、出だしこそまごついていたが、ちゃんと時代劇のメロドラマになっていたから傑作に思えてくる。

■物語の中心は浅井家の三姉妹が二度の落城に遭遇しながら、母の生き抜けとの遺言を胸に、茶々は豊臣に嫁ぎ、その妹小督(寺島しのぶ)は徳川家に輿入れし、大阪の役で敵味方に分かれて対面するという、戦国時代を舞台とした女の年代記ものなのだが、ちっとも年代記ものの面白さが表現されていない。中盤の見せ場である茶々と秀吉が和央ようか渡部篤郎のコンビで演じられるところに退屈さというか、成り立たなさの原因はあるのだが、作劇としても工夫が無い。むしろ、その後寺島しのぶが活躍する小督と千姫谷村美月)の再会場面などは、情感の乗ったいい芝居が映画を盛り立てる。実際、各シーンの編集において、和央ようかの芝居の扱いに困っている風情がありありとみえ、その他の安定した力のある女優達、原田美枝子寺島しのぶ富田靖子谷村美月に焦点があたると、橋本一東映ばなれした長回しを生かした、芝居をじっくりと見せる演出が決まって、ドラマ的に高揚するのだ。せめて茶々の年齢がもう少し演じ分けられていれば・・・

■ついでに苦言を呈すると、製作委員会制度をとりながら、東映住友商事東映ビデオの三社という、実質的に東映単独製作に等しい体制からもわかるとおり、合戦シーンに予算不足が明らかで、伏見のキャッスルランドを利用したロケも、よく撮れたカットもあるが、狭苦しいロケも多く、あまり効果的とはいえない。あの程度なら、すべてミニチュアとCGで処理したほうが、画調の統一が図れただろうが、なにしろクランクインが9月だから全く時間が足りないのだ!合戦シーンは、橋本一がケレンミのある活劇を狙ったが、アクション演出に長けたB班で撮るべきだった。理想的には横山誠にでもB班を委ねればよかったのだ。

■しかし、個人的におおいに満足したのは、佛田洋の特撮チームの大活躍で、大坂城をミニチュアで再現し、オープン撮影したカットや、派手に炎上する様子を空撮の設定で描き出したカットなど、実に素晴らしい仕上がり。茶々が大坂城からまるで地獄のように炎上する城下を望み観るカットなども、マッチムーブが綺麗に決まって、絵画的な美しさだ。そして、ラストには誰もが唖然とするミニチュア原理主義の大爆発シーンをクライマックスに据えるという反時代的な演出には深く感動した。正直、ドラマ的にはここまで派手な特撮は必要なく、本来なら静的なミニチュアカットと絵合成があれば足りるはずなのだが、主人公に和央ようかを当てるなら、特撮もここまで弾けてもおかしくはないはずだという信念に基づくものだろう。しかも、川北紘一が考案した困ったときの金粉頼みが、なぜか東映にも伝播し、ビオランテもかくやという金粉大会が見られるとは、中村獅童ならずとも口をあんぐりさせてしまうだろう。良い方に解釈すれば、「炎上」での宮川一夫を引用したといえなくもない。特撮班の助監督をなぜか小笠原佳文が担当していると思ったら、なんとミニチュア撮影は京都撮影所で行われている。ただでさえ狭い撮影所なので、大型ミニチュアは駐車場でオープン撮影されたが、撮影所の建物が邪魔なので暗幕で覆って隠したのだと!詳細はSFX映画評論を参照のこと。

■正直なところ、橋本一の仕事としては昨年のテレビスペシャル「白虎隊」のほうが、じっくりと芝居を組み立てる演出姿勢によくあっており、脚本にも新機軸があり、完成度は高かった。大坂城炎上の場面など、東映京都撮影所で役者を入れ込んで実際に火を燃やして撮影した、深作版「魔界転生」へのオマージュともいえる豪胆なカットがあり、さすがに京都の撮影所の意地を見せ付けるが、橋本一のいいところが和央ようかという異物と幸せな化学反応を起こさなかったのが残念だ。

■忘れていたが、コメディリリーフとして登場する従者きくの役を、メイサツキという女優が演じているのだが・・・いったい誰ですか?大きな役柄なので一応誰でも知っている役者をもってこないと成立しない話なのですが、この配役にはいったいどんな成算があったのだろうか?


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