人間魚雷 あゝ回天特別攻撃隊 ★★★

人間魚雷 あゝ回天特別攻撃隊
1968 スコープサイズ 104分
DVD
原作■毎日新聞社編 「人間魚雷 同天特別攻撃隊員の手記」 脚本■棚田吾郎
撮影■吉田貞次 照明■増田悦章
美術■鈴木孝俊 音楽■木下忠司
監督■小沢茂弘


 太平洋戦争末期、起死回生の切り札として大里大尉(鶴田浩二)が発案し、粘り強い進言で採用された人間魚雷だが、試験運行中に大尉は事故死してしまう。右腕として残された三島中尉(松方弘樹)は遺志をついで回天を完成させ、回天特別攻撃隊菊水隊が編成され、遂に出撃の命が下る・・・

 人間魚雷回天の発案から実施までの道のりを、実直に綴った正攻法の戦記映画で、瀬戸内でのロケ撮影が大きな効果をあげている。監督の小沢茂弘は特撮が嫌いだったようで、潜水艦からの出撃シーンで、数カットミニチュア撮影が見られる程度で、あとは実写と記録フィルムで構成している。

 中盤で姿を消す鶴田浩二は、軍令部で総長に進言する長台詞の場面などに、さすがの貫禄を見せ、松方弘樹は若手の意地を見せて、独特の緊張感で後半を支える。この映画のユニークさは、予備士官の重要な役を伊丹十三に演らせたことで、東映の常連キャストに無い、知性的な人物像を力まず演じて、松方や梅宮らの東映の地のキャストの力演との微妙なアンサンブルの面白さを生み出している。また、そのことが定石的になりがちな、こうした映画に新鮮でリアルな空気をもたらしている。

 梅宮辰夫が元獣医という設定で犬を絡ませたエピソードを設け、既に死んでいるのを隠して梅宮の実家に松方が訪ねる場面の老犬のエピソードとともに、意外に泣かせるいい場面となっている。なんといっても、犬の演技があの「サントリー・トリス/雨と犬」(1981)のトリス犬のCF並に素晴らしく、動物好きの涙腺を直撃する。

 特攻隊の隊員たちの母親代わりとして登場する三益愛子の場面、松方が出撃を隠して父母に別れの挨拶をする場面など、陳腐な設定かもしれないが、丁寧に撮られており、胸に迫るものがある。三益の懇願に兵隊のために白の絹地を提供する藤山寛美の場面なども、短いながら役者の持ち味がちゃんと生かされた良い場面だ。

 この映画の美点は、奇を衒わず、事実に基づいて素直に構成された劇的効果が、やたらと軍艦マーチや海ゆかばが繰り返されてもなお、作者の誠実な訴えに結びついているところにあるだろう。松林宗恵の「人間魚雷回天」は未見だが、こちらもなかなか捨てがたい。佐々部清の「出口のない海」はどこまで迫れるだろうか。


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