『大坂城物語』

大坂城物語
1961/CS
(2004/3/21 レンタルV)
原作/村上元三 脚本/稲垣浩、木村武
撮影/山田一夫 照明/小島正七
美術/植田 寛 音楽/伊福部昭
特技監督円谷英二
監督/稲垣 浩

感想(旧HPより転載)

 大阪の街に流れ着いた暴れん坊(三船敏郎)は、薄田隼人正(平田昭彦)率いる徳川との戦争を避けるために暗躍する一派の娘阿伊(香川京子)の潔さに惹かれ、謎の忍者霧隠才蔵(市川団子)との友情に支えられながら行動を共にするが、淀君山田五十鈴)の癇気から冬の陣が勃発、暴れん坊は徳川勢の間隙を縫って銃器弾薬を堺から大阪に運ぶ役目に奔走する・・・

 東宝撮影所の小プールに巨大な大坂城のミニチュアを構築したことで有名な時代劇巨編で、随所に意欲的な特撮カットが散見されるのも興味深いが、稲垣浩のスペクタクル時代劇としても大味な構成ながら、キャラクターの素朴な人間味に心洗われるという、近年ではお目にかかれない一種のファンタジーである。

 平田昭彦久我美子の結婚の馴れ初めにも登場することで有名な作品だが、実際平田昭彦は結構な大役であり、盲目の姫を演じる久我美子も往年の美少女ぶりは影も無いが、アニメ合成で小刀を投げるというこの時期では斬新な演出のおかげもあって、登場シーンは少ないながら、儲け役といってもいい活躍ぶり。しかし、ヒロインの香川京子が類型的な役柄を色っぽく演じた演技の充実にはかなわないなあ。

 とにかくこの時代は三船敏郎が大暴れすれば観客は満足できた時期なので、複雑な物語はそもそも用意されていないのだが、豪放磊落なキャラクターとして伊福部昭の劇判にのって豪快に暴れまわって、最後は仕官の口を断って娘と共に田舎に帰ってゆくという、昔懐かしい美女と野獣の寓話は、今観ても意外なほど幸福感を誘ってくれる。本格的時代劇としての体裁は整っていないが、やはりこれは一種の御伽噺として楽しむべき作品なのだろう。クライマックスの敵陣突破行も単純な仕掛けながら、伊福部昭の有無を言わせぬ劇判のおかげでかなり痛快なシーンに仕上がっている。

 円谷英二はタイトルバックで巨大な大坂城のミニチュアを流麗なクレーンショットで舐めるように捉え、次のシーンでは開眼供養の儀式で、ミニチュアの大仏からキャメラをゆっくりと振り下ろすとロケの俯瞰画面に移行するというモーションコントロールなくして成立不可能な高難度の合成カットに果敢にも挑み、意欲溢れる画作りが東宝特撮の黄金期を偲ばせる。

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