第五福竜丸 ★★★

第五福竜丸
1959 スコープサイズ 110分
DVD
脚本■八木保太郎新藤兼人
撮影■植松永吉 照明■田畑正一
美術■丸茂孝 音楽■林光
監督■新藤兼人

第五福竜丸ビキニ環礁での水爆実験による被爆事件を網羅的に描く力作で、新劇俳優総出演という感じの結構な大作。マグロ漁の様子もリアルに表現され、アメリカ側の不誠実な対応の様子も淡々と積み重ねられるが、正直、宇野重吉の一家を中心として家庭劇として描いたほうが劇映画としての感情的な訴求力は強まると思う。そうした切り口でうまくいった例としては木下恵介の『この子を残して』がある。

■登場する新劇人の面々が東宝特撮映画と相当かぶっているため、ほとんど本多猪四郎の映画を見ているような錯覚に襲われる。実際、この脚本であれば、本多監督が伊福部昭と組んで映画化すれば、いかにも本多監督らしい静かな力作になったはずだ。おそらく新藤兼人も音楽を伊福部昭に頼むと東宝特撮映画に似すぎてしまうことを恐れて林光にしたのだろう。 52年の『原爆の子』で既に伊福部昭と組んでいるので、映画が似てしまわないように気も遣っただろう。

■正直、新藤兼人の映画としてはあまり密度の高いものではないが、小学生が第五福竜丸の乗組員たちを見舞いにきたり、久保山愛吉の遺骨が列車で焼津に帰る道中、乗客たちが無言の弔問に次々と訪れる場面など、声高にメッセージを訴えるよりも、静かに深く心を打つ演出が見られるから侮れない。

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