忠臣蔵 花の巻・雪の巻 ★★★

忠臣蔵 花の巻 雪の巻
1962 スコープサイズ 209分
BS2録画
脚本■八住利雄
撮影■山田一夫 照明■小島正七
美術監督■伊藤憙朔 美術■植田寛
音楽■伊福部昭 合成■泉 実
監督■稲垣浩


 東宝創立30周年記念映画で、東宝オールスターキャストに松本幸四郎(現・松本白鴎)以下の歌舞伎陣を迎えた超大作。前後編で上映時間3時間を超える。

 キャストでは、萱野三平に中村萬之助(現・中村吉右衛門)、主税が市川団子(現・市川猿之助)というものめずらしさもあり、退屈はしないが、やはり多少大味な作りだ。

 そんななかで、欲が無くなっては人間は終わりだと公言して妻(沢村貞子)にも愛想を尽かされる吉良役の市川中車は名演と呼んでいい存在感。

 義士の大儀といった精神性にはあまり立ち入らず、塩田の収入、城明け渡しの段取りやその際に渡された金子といった経済的な側面に注目しているのは、関西資本の東宝らしいところだろう。その点では市川崑の「四十七人の刺客」よりも、もっと現実的である。東映ではむしろ、武士の意地や反逆の夢、反権力の姿勢が顕著になるし、演技も含めて全てが時代劇的な様式の制約を受けるが、今作は東宝らしい大らかさが身上となっている。

 特に前編に多用される作画合成がいい効果をあげており、赤穂の塩田のフルショットなんて、忠臣蔵映画で描かれるのは初めてではないか。他にも、赤穂城付近の情景や、山科閑居の遠景、江戸城の上部等々、次々と優れた作画合成や全画が登場して、スケール感を盛り立てる。実にいい仕事ぶりだ。当時の東宝ではなぜか作画合成の撮影担当者しかクレジットされないのだが、作画自体はいったい誰が行ったのか。渡辺善夫は東映大映だろうし、岡田明方はこの時期まだ東宝にいたのだろうか。

 江戸から赤穂への早籠で遍路の老婆を死なせたため討ち入りに参加できなかった萱野三平のエピソードも悲痛だが、懇ろになった女(池内淳子の名演)と離れられず心中する高田群兵衛(宝田明)のエピソードも短いながら真情のこもった演出。討ち入りに行くなら私は死ぬと迫るここでの池内は増村保造若尾文子に迫る鬼気を身にまとっている。病を押して駆けつけようとして路上に倒れる寺崎吉右衛門加東大介)も無念の脱落、結果、今作の討ち入りは46人で行われるのだ。

 ちなみに、「日本沈没」の山本総理のイメージは、平時の昼行灯が危急存亡の危機に当たって隠された指導力と胆力を発揮する大石内蔵助だったことに、今更ながら気づかされた。

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