『インプラント』

インプラント
(THEY)
2003/CS
(2004/2/28 レンタルDVD)

感想(旧HPより転載)

 修士論文公聴会を間近にした大学院生は幼馴染に呼び出されるが、闇に潜む存在からの襲撃を警告して、彼女目の前で拳銃で頭を打ち抜く。それから彼女の身の回りで暗闇に潜むなにものかの存在が彼女の精神を蝕んでゆくようになる。彼女の前に現われた幼馴染の大学での同級生も、自殺した大学生と同様に子供時代に闇からの襲撃を受け、最近体に謎の瑕が浮かび上がっていることを告白し、次々と謎の失踪を遂げる。そして彼女の体にも覚えのない瑕が浮かび上がり・・・

 いまや知る人も少ない伝説の傑作「ヒッチャー」を撮ったロバート・ハーモンが久々にホラー映画に復帰した記念すべき映画だが、制作規模と上映時間からすれば、確かにささやかな小品である。だが、本格的なホラー映画らしさをしっかりと詰め込んだ小味の効いた小品佳作なのだ。

 エドガー・アラン・ポーもそれを見て気が違ったと語る大学生がヒロインの目の前で自殺する凄惨な場面も、グロテスクさよりも雨の叙情が陰鬱なムードと闇の世界の存在感のほうに力点がおかれて秀逸だし、神経質そうな風貌ながら性的には大胆なヒロインを演じるローラ・レーガンが、「ローズマリーの赤ちゃん」のミア・ファローを髣髴させて演技的にも巧い。

 このところ世界のホラー映画界は原初的な暗闇自体の恐怖に着目した映画を次々と生み出しており、他にも「ダークネス」や「黒の怨」(未見)といった作品が生み出されているのだが、この作品の弱みは、クライマックスにCGによるモンスターを出さざるを得なかった点にあり、おそらくは監督自身も百も承知のことだとおもうが、営業上の苦肉の策だろう。逆に言えば、モンスターの存在なしで十分成立するだけの仕掛けが脚本的に提案しきれなかったということかもしれない。

 しかし、脚本的にも演出的にも全体にレベルは高く、あやしの存在に正気を失ってゆくヒロインが自分自身の精神分析を行うシーンなど、役者も演出も完全にB級ホラーの域を超えた名場面といえる。

 闇に棲む怪物の姿がもっと人間的な姿であるか、もっと常軌を逸したデザインであれば、モンスター映画としても格が上がったはずだが。

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